意匠登録の審査基準改定
2017/10/26   知財・ライセンス, 特許法

1 はじめに

 平成29年4月1日に、特許庁が意匠審査基準を改定しました。国際調和を念頭に置き、願書などの記載要件変更、新規性喪失の例外適用に関する運用の明確化を折り込んだ基準の改定となりました。
 企業が、先に第三者に意匠を登録されてしまった後、自分が意匠を登録しようとしても、先願主義により先に登録した第三者が権利を取得するため、登録を受けることができません。この場合、第三者の登録に先立って、企業が意匠を公開していれば、新規性喪失の例外手続を利用することで、登録を受けることができる場合があります。
 もっとも、この新規性喪失の例外手続は、原則に比べると提出する書面も増え、手続もやや複雑です。そこで、基準改定も含めて、意匠の新規性喪失の例外手続について、ここで見ていきたいと思います。

2 意匠の新規性喪失例外の定義

 意匠法では、特定の条件の下で意匠を公開した後に、意匠登録出願した場合には、先の公開によってその意匠の新規性が喪失しないものとして取り扱う規定が設けられています。この意匠の新規性喪失の例外によって、他人の意匠登録に後れを取って、意匠を出願しても、意匠登録により権利を取得できることになります。

3 裁判例

大阪地判平成29年4月20日(特許)
 原告は、本件特許の出願時に、法人Aへのドラム式洗濯機用使い捨てフィルタの販売行為についてのみ新規性喪失の例外の規定に基づく手続きを行っていました。しかし、法人Aと同じ日本生活協同組合連合会の傘下にあるものの、別個の法人格を有する法人Bへの販売行為について、手続きを行なっていませんでした。
 裁判所は、法人Bへの販売行為が法人Aへの販売行為と実質的に同一の販売行為とみるような密接な関連性はないとして、新規性喪失の例外が認められないと判断しました。
 出願人の行為に起因して同一の意匠が複数回公開された場合には、原則として、すべてを証明書に記載する必要があります。

4 必要な手続

(1) 提出すべき書類
①「願書」
②「新規性の喪失の例外証明書提出書」
③「証明する書面」(「意匠の新規性の喪失の例外規定の適用を受けるための証明書」)

を提出します。①はオンライン出願できます。しかし、②③はオンラインでは提出できません。②③は出願から30日以内に郵送で提出しなければなりません。

(2) 書式サンプル(特許庁)
①願書
 願書に、【特記事項】の欄を設けて、当該規定の適用を受けようとする出願である旨を明記します
(【特記事項】 意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願)

②証明書の提出書例

【書類名】      新規性の喪失の例外証明書提出書
【提出日】      平成25年 4月 2日
【あて先】      特許庁長官殿
【事件の表示】
  【出願番号】   意願2012-079999
【提出者】
  【識別番号】   300000001
  【氏名又は名称】 意匠株式会社
【代理人】
  【識別番号】   100000001
  【氏名又は名称】 代理一郎    印 又は 識別ラベル
  【電話番号】   03-3123-4567
【提出物件の目録】
  【物件名】    新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書 1

③証明する書面例
特許庁 意匠の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集(PDF、証明書のサンプルが掲載されています)


意匠の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書

1.公開の事実
①メールの送信日 ○○○○年○月○日
②メールの送信相手先 日本家具販売株式会社
③公開者 意匠家具株式会社
④公開された意匠の内容 意匠家具株式会社が、日本家具販売株式会社へのメール送信にて、色彩三郎が創作した椅子の意匠を公開した。(送信したメールで公開した意匠の写真や電子カタログの画像、当該頁の画像等を添付する)

2.意匠登録を受ける権利の承継等の事実
①公開意匠の創作者

色彩 三郎(神奈川県○○市・・・)

②意匠の公開の原因となる行為時の意匠登録を受ける権利を有する者(行為時の権利者)

意匠家具株式会社(東京都○○区・・・)

③意匠登録出願人(願書に記載された者)
意匠家具株式会社

④公開者
意匠家具株式会社

⑤意匠登録を受ける権利の承継について
 公開の事実に記載の公開行為により公開された意匠は、色彩三郎によって創作されたものであり、創作の直後(○○○○年○月○日)にその意匠の意匠登録を受ける権利が意匠家具株式会社に譲渡され、その後、○○○○年○月○日に意匠家具株式会社が意匠登録出願を行った。

⑥行為時の権利者と公開者との関係等について(行為時の権利者の行為に起因して、公開者が公開したこと等を記載)
  行為時の権利者である意匠家具株式会社自ら、椅子の意匠について、公開の事実に記載のとおり公開を行った。

上記記載事項が事実に相違ないことを証明します。

○○○○年○月○日
意匠家具株式会社 代表取締役社長 意匠 次郎㊞

5 改定による変更点

 また、改訂前では、提出する証明書には、出願人以外の者が、記名・捺印する必要がありました。しかし、改定後には、出願人のみの証明でも有効になりました。

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