インターン生の交通費不正受給の法的問題
2017/10/20

はじめに
この時期、次年度の採用に向けインターンシップを開催されている会社も多いかと思います。そのようななか、インターンシップに来る地方学生のために交通費や宿泊費などを支給している会社にとっては、見過ごせない問題がニュースになっていました。学生が、インターンシップや会社説明会に来る際に会社から支給されている費用について、ウソの申告をして不当に多く得ようとしているという内容のものです。そこで、今回のようにウソの申告をし実際により多くの費用を得た場合、法的にはどういった問題があるかみていきたいと思います。
民事的な問題
インターンシップ契約上では、企業から就活生に支払われる交通費や宿泊費は、費用相当額や、あるいは一定の金額を上限とする、などと定められているかと思います。これは、実際にかかった費用相当額、あるいはその一部を支給するという趣旨だと考えられます。具体的な運用としては、経路について制限したり、普通指定席の料金は認めるが、グリーン料金は認めないなどの制限があったりすることでしょう。
では、制限の範囲内と偽って制限を超えた金額について請求され、実際に支給してしまった場合、企業は、どういった対応が取れるでしょうか。支給した金額のうち制限を越える範囲については、不当利得の返還請求権を行使することができると考えます(民法第703条)。不当利得というのは、契約などの法律上の原因がないにもかかわらず、一方が利益を得て他方が損失を被った場合に、その利得の返還請求ができるという制度です。今回のケースでは、学生はインターンシップ契約で定めている範囲を越えて利得を得ており、反対に、企業は損失を被っています。そのため、企業は、学生に対し、利得分について返還請求ができると考えられます。
刑事的な問題
上記の民事的な問題以外にも、今回のケースは、刑法の詐欺罪にも該当しうる問題です(刑法第246条第1項)。詐欺罪は、ある者が他の人を欺いて、その人に経済的な処分をさせることによって利益を得ることで成立します。今回のケースでは、学生が、実際には請求できないお金を、請求できるお金であると偽って企業の担当者を騙し、その人に支払いの手続をさせることによって利益を得ているため、詐欺罪の構成要件に該当します。詐欺罪は、最長で10年の懲役刑が科される重大な罪ですので、学生にとっても非常にリスクの高い行為といえます。
コメント
今回のケースのようなことが起こらないよう、インターンシップ契約書の中に、契約に反する場合、法的措置を取る旨の条項を盛り込むことも考えられるかもしれません。ただ、インターン生ひとりの交通費は少額なものですし、また、売り手市場のなか優秀な人材を確保するといった点からも、むやみに学生の警戒心を煽るような条項を盛り込むことは得策ではないかと思います。そこで、現実的な方法として、領収書の提出を義務付けるなどして不正を防ぐことが有効でしょう。他方で、人材採用においては、内定取消しや、いわゆるオワハラ問題などで、会社の側も法的責任を問われるおそれがあります。来年の3月から学生のエントリーが開始され、本格的に選考・採用が始まる会社も多いかと思いますが、あらためて採用に関わる法的問題を事前に確認し、予防することが重要と考えられます。
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奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
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