ネット上の誹謗中傷に対する法的対応策
2017/10/18   危機管理, 民法・商法

1 はじめに

 インターネットの普及により、不特定多数者に対して容易に表現することができる時代になりました。しかし、その反面、インターネット上の発言は匿名性が高いことから、その発言が特定者への誹謗中傷となる場合も多く見られます。当該誹謗中傷は、インターネットを介して全世界にその事実が広まり、誹謗中傷を受けた者の名誉や信用を傷付け、多大な不利益を与える事態を生じさせます。そこで、誹謗中傷を受けた場合に、法務担当者が法的にどのような措置をとることができるのか、以下、説明していきたいと思います。

2 法的対応

 インターネット上の誹謗中傷への対応として、(1)削除請求を行う方法(2)発信者情報開示請求を行う方法があります。
(1)削除請求
 まず、誹謗中傷について、当該誹謗中傷が掲載されているサイト等に対し、情報の削除請求をすることが考えられます。この削除請求を法的請求に引き直すと、名誉権に基づく妨害排除請求権としての差止請求となります。
 この差止請求が認められるためには、➀名誉権侵害(名誉棄損)が認められること、また➁その侵害が認められるとしても、侵害行為につき違法性阻却事由(通常法律上違法とされる行為につき、その違法性を否定する事由)が存在しないことが必要です。
 ➀名誉権侵害は、人の社会的評価を客観的に低下させることをいいます。そして、➁名誉権侵害の態様は、事実を適示するもの(事実適示型)と事実を基礎に意見を述べるもの(意見論評型)に分けられ、それぞれ違法性阻却事由が以下のように異なります。

ア 事実適示型
Ⅰ 公共の利害に関する事実を適示するものであって(事実の公共性)
Ⅱ その目的が専ら公益を図るためにあるときに(目的の公益性)
Ⅲ-a 適示された事実が真実であると証明された場合
または、
Ⅲ-b 適示された事実を真実であると誤信したとき、誤信したことにつき信じるに足りる相当の理由がある(理由の相当性)場合に違法性が阻却されます(最判昭和41年6月23日)。

イ 意見論評型
Ⅰ 事実の公共性
Ⅱ 目的の公益性
Ⅲ-a 適示された意見の前提事実が重要な部分において真実であると証明された場合
または、
Ⅲ-b その事実が真実であると信じる理由の相当性がある場合
これに加えて
Ⅳ 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないときに違法性が阻却されます(最判平成9年9月9日)。

 なお、①の名誉権侵害については、被侵害者が主張・立証責任を負います。他方、➁の違法性阻却事由は、誹謗中傷をした者が主張・立証責任を負います。しかし、実際には、プロバイダに削除請求をする際に、侵害事実とともに違法性阻却事由も含めて報告することが通常であり、事実上、被侵害者も違法性事由のないことを主張・立証をする必要があります。

(2)発信者情報開示請求
 プロバイダ責任制限法4条1項は、インターネット上でその名誉を棄損された者は、「権利が侵害されたことが明らか」であり、「損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある」ときに、発信者情報の開示請求を認めています。
 この点、「権利が侵害されたことが明らか」というためには、名誉権侵害で言えば、社会的評価を低下させた客観的事実を証明するのみならず、違法性阻却事由の不存在についても証明しなければなりません(東京地判平成15年3月31日)。違法性阻却事由の証明(合理的な疑いを差し挟まない程度の真実性担保)の分、削除請求よりも要件が厳しくなっています。ただ、仮処分の場合は疎明(一応確からしいという程度の真実性担保)で足りるため、負担は過度に重くなるというわけではありません。

3 各請求の実行

(1)削除請求
 削除請求は、誹謗中傷が記載されているウェブサイトの管理者を相手方として行います。当該管理者にいては、サイト上の企業概要やサイトのIPアドレスからWhois検索により特定します。削除請求を受けた管理者は、自己の判断で削除の要否について決定し、削除すべきと判断した場合は、プロバイダ責任制限法3条2項に基づき削除します。

(2)発信者情報開示請求
 ウェブサイト管理者が投稿者の情報を保有している場合には、その管理者を相手方として発信者の情報につき開示請求できます。しかし、通常、ウェブサイト管理者は投稿者の情報を持っていません。そこで、被害者は、ウェブサイト管理者に対して、当該誹謗中傷が書き込まれたプロバイダ(投稿者と契約しているプロバイダ)の情報(IPアドレスと投稿日時)の開示を請求します。そして、その開示情報から投稿に使われたプロバイダを特定し、そのプロバイダに対して、投稿者情報の開示を請求します。
 また、発信者情報開示請求は、上記の任意手続だけでなく法的手続をとることもできます。その場合、被害者は、裁判所に対し、発信者情報開示仮処分の申立てを行い、裁判所の開示決定を待つことになります。開示決定により、ウェブサイト管理者とプロバイダ双方に対し情報開示を受けることができます。

4 おわりに

 インターネット上の誹謗中傷への対策を述べてきましたが、削除請求や発信者情報開示請求をする場合、二次被害にも注意しなければなりません。すなわち、削除請求等により削除や情報開示が成功したとしても、その削除や情報開示の事実自体につき投稿されることで被害の拡散が強まる可能性があります。そのため、誹謗中傷を受けた者は、当該誹謗中傷による被害の程度を計算し、実害が小さいのであれば放置することも一つの手として考えるべきでしょう。
 他方、企業側に一定の過失がある場合には、謝罪すべき事実と真実ではない誹謗中傷を分けて、後者につきプレスリリースなどで積極的に対応すべきです。
 このように、ケースバイケースで最適な措置が変わります。企業法務担当者としてはどのような対応をとるべきか、具体的事実状態をしっかり把握した上で考える必要があると思われます。

5 参考文献

北岡 弘章「インターネット上の誹謗中傷への法的対応」BUSINESS LAW JOURNAL 2017.10 20頁

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