裁判例に見るマタハラの違法性について
2017/09/13 労務法務, 労働法全般

はじめに
報道によりますと、沖縄労働局では今年1月からの半年間でマタハラに関する相談が24件あり、そのうち16件が非正規雇用者だったとされております。マタハラについては今なお職場での認知度が低く、妊娠を理由に様々な不利益を受けている労働者が多いと言われております。今回はマタハラに関する法規制とその裁判例を見ていきます。
マタハラとは
マタハラ(マタニティー・ハラスメント)とは、妊娠や出産、子育てなどを理由として職場内で様々な嫌がらせや降格、解雇、雇い止めなどの扱いをうけることを言います。マタハラには一般的に2つの形態があると言われます。まず「産休や育休を取得するなら解雇する」などといった制度利用に対する嫌がらせ型、そして「妊娠したせいで私達の仕事が増えた」といった妊娠による能率の低下に対する嫌がらせ型があります。いずれも男女雇用機会均等法などの関係法令で禁止されており、違法行為に該当します。
法令による規制
男女雇用機会均等法9条では、女性労働者の婚姻、妊娠、出産、産休を取得したことなどを理由として解雇その他の不利益な取扱を禁止しています(1項~3項)。また妊娠中および産後1年以内解雇は使用者がそれらを理由としていないことを証明しないかぎり無効となります(同4項)。また育児休業法10条でも労働者の育休の申出、または育休を取ったことを理由として解雇その他の不利益な取扱を禁止しております。そして今年1月1日から事業主は女性労働者の妊娠、出産、産休などにより就業環境が害されることがないよう適切な体制整備が義務付けられております(均等法11条の2)。
マタハラに関する裁判例
(1)妊娠を理由とする降格
広島の病院のリハビリテーション科副主任であった女性が妊娠を理由として軽い業務への配転を希望したところ、副主任から外され復帰後も副主任に戻ることができなかったという事例で最高裁は「妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる」ことは原則として違法・無効であるが「自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的理由」がある場合や、降格に「業務上の必要性」「有利又は不利な影響」の内容、程度に照らして法の趣旨に反しないと認められる「特段の事情」が存在する場合は有効であるとしています(最判平成26年10月23日)。
(2)産休、育休を理由とする解雇
有期雇用の女性従業員が産休を取得した後、育休の取得申請をしたところそれを拒否した上雇い止めを言い渡された事例で裁判所は「使用者は・・・法定の除外事由がない限り、育児休業申請を拒んではならないのであり・・・申請を拒否」した行為は違法であるとしました。また育休拒否により休暇をはさみつつ出勤せざるを得なかったこと、出勤しても仕事をほとんど与えられず、机もパソコンも無い状態であったことによる苦痛は地位確認と未払い賃金の支払だけでは補填されるものではないとして慰謝料の支払を認めました(東京地判平成15年10月31日)。
(3)軽易業務への不転換
介護サービス会社の女性従業員が妊娠による経緯作業への転換を申出たところ、「妊婦として扱うつもりはない」「万が一なにかあっても働くという覚悟はあるのか」などと言われ配転を拒否された事例で裁判所は「妊娠を理由として業務の軽減を申し出ることが許されないとか、流産しても構わないという覚悟をもって働くべきと受け止められる発言」をしたことは「社会通念上許容される範囲を超えている」とし配転を行わなかった点についても「職場環境を整え、妊婦であった従業員の健康に配慮する義務に違反」したものとしました(福岡地判平成28年4月19日)。
コメント
近年男女の労働環境の平等化や少子化是正への機運から政府も従業員の妊娠・出産・育児への配慮を強化するよう推進しております。また改正男女雇用機会均等法の施行により今年1月1日から事業者はマタハラ防止への体制整備が義務付けられました。しかし妊娠、産休、育休にともなう職場での軋轢や不利益扱いは依然として減少の兆しを見せていないと言われております。実際従業員の産休、育休、軽易作業転換などを行った場合、業務や他の従業員に少なからず影響を及ぼすことも否定できない面があることは確かです。しかし以上見てきたように妊娠・出産を理由とする不利益取扱は法律で厳格に禁止されており、裁判所も厳しい態度で臨んでいると言えます。妊娠を理由に従業員を降格させる場合はその必要性を十分に説明した上で従業員の「自由な意思」を尊重することが重要です。また妊娠した従業員に対し、不利益に取り扱うことが違法である旨を社内で周知し、従業員が妊娠に対しマイナスイメージを持たない環境の整備を目指すことが重要と言えるでしょう。
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