白山陶器がダイソーに抗議、意匠について
2017/07/14   知財・ライセンス, 商標関連, 商標法, その他

はじめに

白山陶器がダイソーに対し、同社の陶器のデザインを模倣しているとして、模倣品の販売中止と在庫の破棄を求め抗議文を送付していたことがわかりました。今回は物の形状やデザインに関する知的財産権、意匠について見ていきます。

事件の概要

報道などによりますと、波佐見焼の窯元である白山陶器(長崎県)は2009年から植物をモチーフにした手書きの柄である「ブルーム」柄の陶器を販売しておりました。「ブルーム」柄は同社の顔とも言える存在とのことです。一方大創産業(広島県)が全国展開する100円ショップ「ザ・ダイソー」で販売されていた「陶器柄」と称する扇子には白山陶器の「ブルーム」柄と酷似するデザインが印刷されているとのことです。白山陶器はこの「ブルーム」柄を「日本陶磁器意匠センター」(名古屋市)に登録しているとしています。大創産業は以前にも白山陶器の醤油差しのデザインを模倣したとして抗議を受け、販売中止と在庫破棄を行ったことがあるとのことです。白山陶器は「ブルーム」柄を8年かけて成長させてきた人気シリーズであり、転用によってブランドイメージが損なわれ売上にダメージを受けるリスクに直面しているとして差止と、在庫破棄を求めています。

意匠とは

物品あるいは物品の部分における形状、模様、色彩に関するデザインを意匠と言います。意匠は特許よ商標のように特許庁に登録出願を行い、登録を受けることによって法的に保護されることになります(意匠法3条1項、20条1項)。意匠権は登録の時から生じ、その存続期間は登録の日から20年となっております(22条)。意匠権者は業として登録した意匠およびこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し、これが侵害されている場合、または侵害されるおそれがある場合にはその差止や必要な措置を求めることができます(23条、37条)。また意匠権侵害により損害賠償請求する際には損害額の推定規定や過失の推定規定が置かれ(39条、40条)、立証の負担が軽減されております。

意匠登録の要件

(1)視覚を通じて美観を起こさせる意匠
特許庁によりますと、意匠登録がなされるための要件としてまず、視覚を通じて美観を起こさせる意匠であることが必要です。つまり肉眼でそのデザインが判別できるものである必要があり、たとえば粉状、粒状の1単位といった肉眼で判断できないものは不可とされております。

(2)工業上利用性
機械的、手工業的といった工業的な生産過程を経て反復生産、量産できるデザインである必要があります。つまり絵画や彫刻といった一点ものの美術品や自然石をそのまま置物としたもの、花火の閃光といったものは同じ物を量産できないことから意匠登録の対象とはなりません。

(3)新規性
意匠には今までにない新しいもの、すなわち新規性が必要となります。出願前にそれと同一かまたは類似の意匠が存在しない場合を言います。具体的には既に登録され公表されている意匠、雑誌やインターネット上に掲載されている意匠、これらに類似する意匠は不可となります(3条1項1号、2号)。ここで類似する意匠であるかの判断について特許庁の審査基準によりますと、①何に施された意匠であるかという物品の類否、②デザインの形態の類否、③両者の共通点と差異点の認定、④共通点と差異点のデザインに与える影響の大小、⑤以上を総合して類似性を判断しているようです。

(4)創作非容易性
新規性を有していても、意匠として保護に値するものでなければなりません。つまり既知の意匠から容易に創作できてしまうものは登録されないことになります。安易で粗雑な意匠が乱立すると逆に意匠の保護が阻害され産業の発達にとってそぐわないからです。例えば単なる星型の石鹸といったものは創作性が低く容易とされております。

(5)その他
以上の要件の他に公序良俗に反する意匠、他人の製品と混同を生ずるおそれがある意匠などは不可となります(5条)。また同一、類似の意匠について複数の出願があった場合は最先の登録出願人の出願のみが登録されることになります(先願要件(9条)。

意匠登録が無い場合

意匠としての保護を受けるためには、上記のとおり特許庁に出願し登録を受ける必要があります。しかし既存の製品、商品の完全な、あるいはほとんどの部分で類似の模造品、コピー商品、すなわちデッドコピーである場合は別途不正競争防止法違反となる可能性があります(2条1項3号)。ただしこの場合は日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過すると適用除外となってしまいます(19条1項5号イ)。

コメント

本件で白山陶器は「ブルーム」柄を「日本陶磁器意匠センター」に登録しております。しかしこれは意匠法上の登録には該当しませんので意匠権として法的拘束力は認められないとされております。しかし本件では陶器と扇子という違いはあるものの、ほどこされているデザインはほぼ同一のものと言えることから不正競争防止法に抵触する可能性はあると言えます。以上のように意匠を巡る紛争ではやはり意匠法に基づいた登録を受けている方が権利保護の観点から有利と言えます。しかし意匠権は上記のとおり存続期間が20年に限られ、商標権のように更新制度はありません。陶器のデザインのように相当の長期間に渡って使用されているものの場合は意匠法による保護が難しい場合も存在しますが、それ以外の工業製品の場合はできるだけ速やかに意匠登録を行っておいた方が紛争の際には有利と言えます。自社製品の性質や販売形態や販売期間等を見定め、デザイン等の知的財産権をどのように保護していくかを慎重に吟味することが重要と言えるでしょう。

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