消費者契約法の差止め、取消しの対象となる「勧誘」の意義と、不実告知
2017/06/28   広告法務, 消費者契約法

1 はじめに

 消費者契約法の「勧誘」の意義については、「特定の者に向けた勧誘」に限られるのか、「不特定多数の者に向けた広告」をも含むのか裁判例で争いがありました。クロレラ差止請求事件最高裁判決(最判平成29年1月24日)では、消費者契約法12条の「勧誘」の意義について、後者であると判断されました。
以下では、「勧誘」に加え、差止請求の要件となる不実告知(消費者契約法4条1項1号)についても、考察を加えます。なお、消費者契約法については、以下、単に「法」と記載します。

2 クロレラチラシ配布差止請求事件の概要

(1)本件は、京都の消費者団体が、サン・クロレラ販売(株)に対して、日本クロレラ療法研究所の折り込みチラシの配布の差止めを求めた事件です。チラシによる「勧誘」があり、その文言が、消費者契約法の不実告知(消費者契約法4条1項1号)に当たるとして、差止請求がされました(消費者契約法12条)。

(2)クロレラとは、淡水に生息する緑藻の一種で、健康食品として販売されています。しかし、クロレラの栄養性は確実に立証できているとはいえず、安全性についてもアレルギー症状等の作用が報告されています。

(3)そのようなクロレラについて、本件のチラシには、クロレラには「病気と闘う免疫力を整える」「細胞の働きを活発にする」などの効用の記載があり、かつ、クロレラ服用により、肺気腫や自律神経失調症などの症状が改善した旨の体験談が載っていました。
 クロレラの効用が不確かなものである現段階で、これらの記載には合理的根拠がないため、不実告知にあたるかが問題となります。

 また、今回、最高裁で判断された「勧誘」に、チラシの配布があたるかも問題となります。

ア 法4条の不実告知について(「重要事項について事実と異なることを告げること」)
 最高裁では、この点については、判断していません。消費者庁の逐条解説によれば、客観的に真実又は真正でないことをいい、主観的評価は含まれないとされています。
 原審でも、判断されていません。不実告知に当たるか否かの立証責任は原告である消費者団体にあるため、チラシ配布をした事業者が、クロレラの効用につき客観的に真実であることを証明しなければならないわけではありません。もっとも、第1審判決では、その証明がなくても、景品表示法の優良誤認表示を行ったと認定されています。クロレラの効果は、国のお墨付きであるとの認識を消費者に与えることが、問題とされています。たしかに、クロレラを実際に使用した人の体験談だけでは、主観的評価となり、不実告知に当たらない可能性が高いです。しかし、優良誤認表示がある場合には、不実告知が認定される可能性がありそうです。

イ 「勧誘」の意義
 判決では、「勧誘」の意義について、事業者が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を一律に除外することは、消費者契約法の趣旨に照らして、相当とはいえないとされました。
 消費者契約法の趣旨は、情報や交渉力の格差があるため消費者の利益を擁護することにあります。したがって、広告などの不特定多数の消費者を対象とする宣伝でも、影響力によっては、「勧誘」に当たることになります。具体的には、事業者は、広告の記載内容全体からして消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件などを具体的に認識し得るように広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うような場合もあります。このような場合には、その働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えうるため、「勧誘」に当たると解されることになります。
 ちなみに、現在では、消費者庁の逐条解説によると、「勧誘」とは、消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の進め方とされています。

(4)結論
 本件は、差止訴訟です。そのため、消費者契約法12条1項によれば、不特定かつ多数の消費者に対して、同法4条1項から3項までの行為を「現に行い又は行うおそれがあるとき」に該当しなければなりません。
 「勧誘」について、個別の消費者への影響力を考慮しなければなりません。その一方で、「不特定かつ多数の消費者」への影響力を考慮しなければならない意味は、少額だが高度な法的問題をはらむ紛争が拡散する消費者取引の特性から、同種の紛争が拡大するのを未然に防止して消費者の利益を保護する点にあります。そうすると、「現に行い又は行うおそれがあるとき」とは、紛争が拡散する蓋然性があるときに認められるといえます。
 本判決は、上告棄却となっています。それは、第1審判決後、事業者は、優良誤認表示を行わない旨を明言し、差止請求の対象となっていたチラシの配布をやめたため、紛争が拡散する蓋然性が認められず、「現に行い又は行うおそれがあるとき」に該当しなくなったからだと思われます。

3 企業法務の対応

 本判決がでたことで、消費者庁の逐条解説においても、不特定多数の者に対する働きかけを、一律に排除する見解は、削除され、本判決が掲載されるようになりました。「勧誘」の意義が、広く解されるようになり、企業にとっては、規制が厳しくなりました。広告、チラシの配布、パンフレット、店頭掲示等において、「勧誘」にあたるかどうかに細心の注意を払わなければなりません。また、不実告知に当たるか否かについては、法12条による差止請求や、法4条による取消請求をする原告に、証明責任があります。しかし、本判決からもわかるように、景品表示法にも該当するおそれもでてくるため、企業は、自己防衛の観点からも、紛争の際、直ちに客観的に証明可能な事実に基づき、広告等を打ち出していく必要があるといえます。

補足

・消費者契約法とは
消費者契約法は2000年に制定された法律で、消費者と事業者との間の情報、交渉力の格差に鑑み、消費者に一定の要件のもと契約の取り消し権や消費者に不利な契約条項の無効を定めることにより、消費者の保護を目的とする法律です。
・消費者契約法の改正点
消費者契約法の実体法部分を改正する「消費者契約法の一部を改正する法律案」が2016年5月25日に国会で可決成立し、同年6月3日に公布されました。不実告知(事実と異なること)における「重要事項」の範囲が拡大、必要以上に大量の商品を買わされる過量契約において取り消しが可能、消費者契約における取消権を行使した場合、消費者は現に利益を受けている限度において返還を行えば足りる等の改正がされました。

関連サイト

消費者契約法改正と「クロレラチラシ配布差止等請求事件最高裁判決(最判H29・1・24)」の及ぼす影響
クロレラチラシ事件最高裁判決の実務への影響―最高裁平成29年1月24日判決
国民生活センタ― クロレラチラシ配布差止と消費者契約法12条の「勧誘」の意味
今、見直したい健康食品「クロレラ」
逐条解説(消費者契約法) 

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