伊藤園のトマト飲料特許訴訟でカゴメが勝訴、特許無効について
2017/06/09   知財・ライセンス, 特許法, その他

はじめに

食品大手カゴメが伊藤園のトマト飲料に関する特許につき特許無効を主張していた訴訟で知財高裁は8日、カゴメの主張を認め、特許無効を認めました。カゴメは製法の定義が曖昧であるとして特許庁に特許無効の審判申立を行っておりましたが特許庁により特許が有効との審決が出されました。今回は特許無効について見ていきます。

事案の概要

判決等によりますと、伊藤園は2013年にトマト飲料についての製法特許を取得していました。その内容はトマト含有飲料の各種アミノ酸量を所定の数値範囲内に調整することにより、トマト本来の自然のコク味や舌触りを維持・向上させながら、喉越しや後味が改善され、トマトが苦手なユーザーも美味しく飲用できるというものです。アスパラギン酸やアルギニン酸、アラニン等の各種アミノ酸の具体的な含有数値が指定されております。これに対してカゴメは「主観的な感覚である味をいくつかの成分の割合だけで決めることはできない」「製法の定義が曖昧である」として特許の無効を主張しました。

特許無効の主張

出願された発明が特許要件を満たさないにもかかわらず、特許がなされば場合に特許無効審判請求を申し立てることができます。無効審判は冒認出願や共同出願違反の場合以外は基本的に誰からでも請求することができます(特許法123条2項)。審判の対象となる特許は、現在存続しているものだけでなく、既に消滅した過去の特許も含まれることになります(同3項)。審判請求がなされると、特許庁では3名~5名の審判官による合議体が組織され審理がなされます。審理では特許権者と請求者が口頭で主張を行うという訴訟手続に近い慎重な手続が行われます(145条)。最終的に特許庁による審決という形で判断が示されることになります。この審決に対して不服がある場合には知財高裁に審決の取消を求めて提訴することができます(178条)。

特許無効事由

特許法123条1項では特許無効審判で無効にできる場合が列挙されております。具体的には以下のような場合が該当します。。
①17条の2第3項の規定に反して新規事項を追加する不適法な補正をした出願である場合。
②25条、29条等外国人の権利に関する規定に違反してされた出願である場合。
③その特許が条約に違反している場合。
④新規性がない場合。
⑤進歩性がない場合。
⑥産業上の利用可能性がない場合。
⑦36条4項が規定する、その分野における通常の知識を有する者が実施できる程度に明確かつ十分に発明内容を記載していない場合(実施可能性)。
⑧公序良俗に反する発明である場合。
⑨発明者またはその権利を承継している者以外の者による出願である場合(冒認出願)。

審理での攻防と訂正請求

無効審判では請求者は上記無効事由のどれに該当するのかを具体的に特定し、それについて証拠により立証していくことになります。最も多い例では新規性の欠如を無効事由とし、それを立証するために特許文献や実験報告などの刊行物等を提出することが挙げられます。これを受け訴えられた側である特許権者は無効理由を解消するために、特許請求の範囲や添付図面、明細書等の訂正請求をすることができます(134条の2)。この訂正請求は最初の答弁書提出の指定期間等の審判長が指定する期間に限り行うことができます。

コメント

本件でカゴメは伊藤園の製法特許は主観的な味とアミノ酸の成分割合が示されてるだけで製法の定義が曖昧であると主張しています。これは無効事由の一つである、36条4項が規定する当該分野の通常の知識を有する者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載がなされていないことに当たるとの主張です。同業者であれば再現できるだけの明確な定義となっていないということです。またそれ以外にも新規性や進歩性にも疑義が有る旨主張しております。知財高裁の森裁判長は「トマトジュースにはさまざまな成分が含まれており、特許とする成分調整だけ濃厚な味わいが得られるものとは言えない」「苦味など他の要素の影響を踏まえた評価試験が必要」とし曖昧さを認め特許を無効としました。このように特許を巡る攻防では新規性や進歩性、産業上利用可能性、実施可能性等に問題が無いかを主張立証していくことになります。本件のように同業者に特許が取得され、どこまでが保護されているのか不明確な場合や、特許侵害で提訴された場合には以上の点を踏まえて対抗策を講じていくことが重要と言えるでしょう。

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