裁判例にみる逮捕による解雇
2017/03/02   労務法務, 労働法全般

はじめに

 中国放送の元アナウンサーが5年前に窃盗を犯したとされる裁判が2月17日に最高裁判所で行われ、無罪判決となる見通しとなりました。
 今回は現役の従業員ではありませんが、現役の従業員が逮捕されたときに会社は従業員を解雇できるのでしょうか。

解雇の条件

 基本的に、会社の就業規則には解雇に関する事項があります。会社によっては、就業規則に従業員が犯罪行為を行った場合を解雇事由としているところもあります。また、このように直接的でなくとも、多くの会社は就業規則に会社の名誉や信頼を毀損した場合や会社の体面を著しく汚した場合などを記載しています。このような就業規則もなしに突然解雇することは許されません。
 それでは、これらの就業規則があれば従業員を解雇して問題がないかというと、そうではありません。労働契約法15条は「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」としており、16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」としている。つまり、日本の法律では解雇するために就業規則があるだけではなく、「合理的な理由」が必要とされるのです。

解雇の有効性が争われた裁判例

 どのような場合に「合理的な理由」があるとされているのでしょうか。ここからは実際の裁判例を見てみましょう。
 従業員の逮捕による解雇で有名な最高裁判例としては、憲法において著名な砂川事件で米軍基地内に立ち入った容疑で逮捕されたことが会社の就業規則である「不名誉な行為」にあたるとして、鉄鋼メーカーに勤める従業員が解雇された事件があります。解雇の有効性について最高裁判所は、「社会一般から不名誉な行為として非難されるような従業員の行為により会社の名誉、信用その他の社会的評価を著しく毀損したと客観的に認められる場合に、制裁として、当該従業員を企業から排除しうる」としました。そして、解雇の有効性を判断するためには「当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に解雇は有効であるとして考慮すべき事情を示しました。そして、今回の従業員解雇については「会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行なわれたものであること、被上告人の受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、上告会社における被上告人の職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど」を考慮して解雇は無効であると判断しました。
 一方で、鉄道会社の従業員が痴漢をして逮捕されたことが、職務規定に触れるとして解雇された事件があります。裁判所は、痴漢事件としての報道に会社名が載ることはなかったことを考慮しても、会社が痴漢撲滅の運動を強化していた、従業員は本来痴漢などの犯罪から乗客を守るべき立場であった、過去に痴漢で2度逮捕されて罰金刑に処せられていることから、解雇は有効と判断しました。

まとめ

 従業員が逮捕された場合に解雇できるかを裁判例を中心に見ていきました。裁判所は実際の事件に対して多くの具体的な要素を考慮して解雇の有効性を検討していることがわかります。翻すと、会社が解雇を言い渡したとしても、一度裁判となると思わぬ事情で解雇が認められない可能性もあるといえるでしょう。法務に携わる方は、経営者が解雇を検討しているときに、その解雇が認められないおそれがあることを上申することを視野に入れておくことになります。そして、解雇を行う場合には裁判所が考慮すると考えられる事情を証拠とするべく整理しておく必要があります。特に従業員が犯罪を行った状況や犯罪に至った背景事情、犯罪が行われたことでいかに会社が名誉や信用を失ったのかについて法務に携わる方は情報収集を行うことになります。

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