最高裁が「有効」判決、残業代差し引く歩合制賃金規則について
2017/03/01   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

タクシー運転手ら14人がタクシー会社に対し、歩合給から残業代を差し引く賃金規則は労基法に反し無効であるとして未払い賃金の支払を求めていた訴訟の上告審で28日、最高裁は無効ではない旨の判決を言い渡しました。今回はタクシー業界等で採用されている歩合制賃金での割増賃金について見ていきます。

事件の概要

タクシー会社大手のKmグループに属する「国際自動車」(東京都)は歩合給制度を採用しております。同社の就業規則ではタクシー乗務員に時間外手当、休日手当、深夜手当等の割増賃金が発生した場合、その割増賃金額と同額を歩合給から差し引くという計算方法を採っていたとされております。これにより時間外労働を行っても、割増賃金が生じれば同額を差し引かれ事実上割増賃金は0円に固定されることになります。同社の乗務員14人はこのような給与体系は時間外労働の割増賃金支払を義務付ける労働基準法37条に違反し無効であるとして未払い分の割増賃金の支払を求め2012年5月、東京地裁に提訴しました。一審二審は原告らの主張を認め同社の割増分を控除して計算する部分は労基法37条に違反し、また民法90条の公序良俗にも反し無効であるとしました。

労基法の規制

労基法37条1項によりますと「使用者が」「労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合」「二割五分以上五割以下の・・・割増賃金を支払わなければならない」としています。そして3項では「午後十時から午前五時までの間において労働させた場合・・・二割五分以上の・・・割増賃金を支払わなければならない」としています。時間外労働、休日労働、深夜労働の場合には基本給に25%以上の割増賃金の支払を義務付けております。

歩合型賃金制の場合

歩合給制や出来高給制の場合であっても時間外労働や深夜労働、休日労働を行わせた場合に割増賃金を支払わなくてはならない点は変わりありません。そして労働基準法施行規則19条によりますと、「出来高払制その他の請負制」の場合「賃金の総額」を「総労働時間数で除した金額」を基礎として上記割増賃金を計算することになります。つまり歩合給であっても、通常の賃金体系に引き直して計算し割増分を支払わなくてはならないということです。歩合給の中に固定残業代を含むとしていたタクシー会社の事例で最高裁は、時間外労働、深夜労働を行っても増額されるものでなく、通常の賃金と割増賃金に当たる部分とを判別することもできないことから法定の割増賃金が支払われていたとは判断できないとしています(最判平成6年6月13日)。歩合制でも実質的に時間外労働の時間数に比例して賃金が増加していなければ支払ったとは言えないということです。

本件判決要旨

本件で最高裁第三小法廷は同社の賃金規則について労基法の趣旨に反して一律に無効であるとは言えないとしました。そして同社の規則に基づく賃金が労基法の定める割増賃金の支払いと言えるかが問題となるとして東京高裁に差し戻しました。

コメント

一審二審の労基法の趣旨に反し無効である旨の判決は破棄されましたが、このような給与規則自体が一律無効というわけではないとの判断に過ぎず、歩合給では残業代を支払わないという給与体系自体が許容されたものではないと言えます。従来までの判例・裁判例と同様に実質的に法定の割増賃金が支払われたと言えるかを重視している点は変わりないと言えるでしょう。会社は給与の決定方法や算定方法等を基本的に自由に決定することができます。しかし請負制や歩合制と採っているからと言って割増賃金が免除されるものではなく、また成果がなかったからといって無報酬とすることも許されません。「出来高払制その他請負制」であっても「一定額の賃金の保障をしなければならない」としております(27条)。支払われた給与を時間単位で換算した場合に地域別最低賃金に達していない場合も違法となります。以上のように歩合制、出来高制といった給与体系を採用しても原則として通常の賃金体系と同様の規制に服すことになります。歩合制の採用を検討している場合、またすでに採用している場合には、この点について注意が必要と言えるでしょう。

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