メンタルヘルス対策の動向について
2017/01/06   労務法務, 労働法全般

1 概要

 厚生労働省は、2016 年4 月に「ストレスチェック制度の施行を踏まえた当面のメンタルヘルス対策の推進について」という通達(以下「本件通達」といいます。)を出し、ストレスチェック制度を普及させるよう推し進めています。
 それに対して昨年12月に市場調査・コンサルティング会社の株式会社シード・プランニングは、EAP・メンタルヘルス市場に関する市場動向調査を行いました。
 その調査結果は2016年の企業・団体におけるメンタルヘルス対策では改善傾向にあり、「体制整備」、「専門職スタッフ確保」「ストレスチェックの実施」を約9割の企業・団体が実施しているとの結果でした。調査の詳細については以下3で説明します。
ストレスチェック制度の施行を踏まえた当面のメンタルヘルス対策の推進について(厚生労働省)(pdf)

2 ストレスチェック制度

(1)ストレスチェック制度とは
 ストレスチェック制度は、平成27年12月に施行され、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげる取組です。
ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等(厚生労働省)
(2)義務化されたが、罰則はあるのか
 従業員50人以上の企業においてストレスチェック制度が義務化されました(労働安全衛生法66条の10)。しかし、現時点では、企業がストレスチェックを実施しなかった場合に罰則が課されることはありません。
労働安全衛生法

3 EAP・メンタルヘルス市場に関する市場動向調査の詳細

(1)メンタルヘルス対策の取り組みと実施主体の推移
 調査では、「体制整備」「専門職スタッフ確保」「ストレスチェックの実施」を約9割の企業・団体が実施しているとの結果でした。
 そして、2014 年から2016 年の推移では、「ストレスチェック実施」を「EAP 事業者に委託」する割合が13.3 ポイント増加するなど、外部委託が活況です。しかし、その他の項目の「体制整備」「専門職スタッフ確保」ではEAP への委託割合は微減傾向にあります。これは多くの企業が、ツールやノウハウのないストレスチェックのみを外部委託して、その他のメンタルヘルス対策を社内の産業保健体制を強化するなどして「社内のみで実施」する傾向がみられています。
(2)メンタルヘルス対策の優先順位
 企業のメンタルヘルス対策の優先順位は、「長時間・過重労働」(23.4%)が最多となり、次いで「うつ病等の精神疾患」(22.2%)、「ハラスメント」(12.7%)となっています。
 「長時間・過重労働」が最多なのは2014 年に「過労死等防止対策推進法」が施行され、2015 年には過労死等の防止のための対策に関する大綱が策定されたことが大きく関係しています。
(3)EAP・メンタルヘルス関連市場規模予測
 ストレスチェック制度関連市場を含めたEAP・メンタルヘルス領域の市場規模は、2016年に166.4億円と推計しています。また、2020年には217.3億円の市場に成長すると予測されます。
EAP・メンタルヘルス市場動向調査

4 EAPとは

(1)EAPとは
 EAPとは Employee Assistance Program の略であり、従業員支援プログラムのことです。これは、メンタル面から社員を支援するプログラムで、近年増えてきた職場の複雑な人間関係などによるうつ病などを回避させるために企業が外部団体と契約して社員の心の健康をサポートするシステムです。
(2)EAPのメリット
 ①外部機関が実施
  社内の人に知られず、専門家に相談できる安心感があります。
 ②会社が福利厚生サービスとして提供
  従業員は自己負担無しで自由に相談できる気軽さがあります。

5 使用者の安全配慮義務

(1)安全配慮義務
 労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」として使用者の労働者に対する安全配慮義務を明文化しています。そして、メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に含まれると解釈されています。
労働契約法
 また、安全配慮義務を怠った場合には、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に対して損害賠償を請求できます。

(2)安全配慮義務違反の判例(うつ病)
 業務の過重によるうつ病を理由に自殺した場合に安全配慮義務違反を認定して使用者に対して損害賠償の支払を命じた判例があります(東京高裁 平成21年7月28日 労判990号)。本判例は、「不規則、長時間の勤務で、作業内容や閉鎖的な職場の環境にも精神障害の原因となる強い心理的負担があり、自殺原因の重要部分は業務の過重によるうつ病にある」とし、「疲労や心理的負担が蓄積しすぎないよう注意すべきだった」として安全配慮義務違反を認定しました。

6 コメント

 企業はメンタルヘルス対策のためにEAP事業者を利用する方法がありますが、その際企業の法務担当者は外部から社内の情報が流出しないようにEAP事業者と間で話し合い、秘密保持契約等を結ぶなど対策を講じるべきです。
 また、EAPを利用せず社内での専任担当者を採用するということで社外流出のリスクを少なくすることができますが、その場合には社内に相談情報が洩れることを恐れて相談しないなどメンタルヘルス対策として意味をなさず形式的なものとなる可能性もあります。その社内体制を理由に従業員とトラブルとなった場合には企業が安全配慮義務違反を問われる可能性があります。そうならないためにも法務担当者はメンタルヘルス対策の担当者にこのようなリスクがあることを伝え、しっかりとした対策を講じてもらうように活動をするべきです。

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