農協観光に公取委が勧告、不当減額について
2016/11/30   コンプライアンス, 下請法, その他

はじめに

公正取引委員会は25日、下請業者に海外旅行の手配を委託した際の代金を不当に減額したとしてJA系旅行会社農協観光に勧告していたことがわかりました。同社は不当とされた分については既に返金しております。今回は下請法が禁止する下請代金不当減額について見ていきます。

事件の概要

公取委の発表によりますと、農協観光は2015年4月~2016年5月に顧客が利用する海外の宿泊施設、交通機関、飲食店等の手配を手配業者13社に委託しておりました。これらの業者は資本金の額が5千万円以下の法人です。農協観光はこれらの業者に旅行者数に応じて一定額を「奨励金」という名目で支払わせておりました。その際振込手数料も合わせて業者に負担させており、これらの総額は1163万3936円となっておりました。公取委はこれら奨励金を負担させる行為が実質的に下請代金の不当減額に該当するとして違反事項の確認、再発防止の措置、社内の周知徹底、下請業者にその旨通知等を命じる勧告を言い渡しました。農協観光は違反とされる金銭相当分について既に返金しております。

下請法上の規制

下請法は下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を目的としています(1条)。下請法が適用されるか否かは親事業者と下請事業者の事業規模によって決まります。製造委託で親事業者の資本金が3億円を超える場合は下請事業者の資本金が3億円以下、親事業者の資本金が1千万円を超え3億円以下の場合は下請事業者の資本金が1千万円以下の場合に下請法が適用されることになります。それ以外の情報成果物作成や役務提供委託の場合は親事業者の資本金が5千万円超え下請事業者の資本金が5千万円以下、親事業者の資本金が1千万円超え5千万円以下下請事業者の資本金が1千万円以下の場合に適用されます(2条1項~8項)。また下請法では親事業者に様々な義務や禁止事項が規定されており違反した場合には勧告(7条)や罰則(10条)の適用があります。

不当減額とは

下請法4条1項は1号から7号まで親事業者の禁止事項が定められておりますが、その3号では「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を禁止しております。景気の悪化等で売上が伸びない、販売価格を値下げしたといった親事業者の一方的な理由で下請事業者に支払う代金を減額してはいけないということです。下請事業者側に責任がある場合には例外的に減額が認められます。例えば下請業者が納入した製品に契約内容と異なる瑕疵があった場合等が挙げられます。

不当減額の成立要件

(1)下請代金
4条1項3号の減額の対象である「下請代金」とは2条10項によりますと、「親事業者が製造委託等をした場合に下請事業者の給付に対して支払うべき代金をいう」としています。そして3条1項では「親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに・・・給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法・・・を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない」としています。公取委によりますと不当減額の対象たる「下請代金」はこの親事業者が製造委託等の際に交付した3条書面に記載された額が該当するとしています。

(2)減額
「額を減ずること」とは公取委の運用によりますと、名目の如何を問わず、上記3条書面に記載された「下請代金」から減ずるものであれば該当することになります。たとえば歩引き、システム利用料、勧奨金といった形であっても「下請代金」を減らす以上は該当するということです。そしてガイドラインによりますと、消費税・地方消費税額相当分を下請事業者に負担させたり、下請代金はそのままでも数量を増加させることや、振込手数料を負担させるといったことも実質的に減額に該当するとしています。このように3条書面の「下請代金」から差し引いた場合が減額に該当し、金銭を提供させた場合は別途4条2項3号の「経済上の利益を提供させること」に該当することになります。

(3)下請事業者の帰責性
「下請事業者の責に帰すべき理由」とは上でも少し触れましたが、親事業者が本来禁止されている「受領拒否」「返品」が例外的に認められる場合の代金相当額や納期遅れによる価値低下分等に限られます。受領拒否も4条1項1号で禁止されておりますが、三条書面の委託内容に合致しない場合や瑕疵がある場合には例外的に認められております。返品も同4号で禁止されていますが同様の理由で認められることになります。このような理由がある場合に限り下請代金を減額することができます。

コメント

本件で農協観光が役務提供委託を行っていた業者13社はいずれも資本金が5千万円以下で下請法が適用されることになります。そして農協観光は「奨励金」という名目で下請代金から減額し、その振込手数料も業者に負担させておりました。これらはいずれも「下請代金の額を減ずること」に該当することになります。農協観光は「法令の認識が間違っていた。社内研修を通し理解の徹底に務める」としています。以上のように下請法が禁止する不当減額は両者で合意して3条書面に記載した代金を実質的に減らす場合に該当することになります。両者合意の上で減額し、その額を3条書面に記載していた場合は不当減額には当たりません。リベートや奨励金、協賛金といった名目で代金を差し引く例はよく見られますが、多くの場合は違法な下請法違反となると言えます。種々の事情により代金減額を希望する場合は下請業者と交渉の上で合意し、3条書面に記載することが重要と言えるでしょう。

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