広がりつつあるADR利用、裁判外紛争解決手続について
2016/11/18 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

はじめに
日経新聞電子版は12日、自転車事故等の紛争解決にADRの利用が広がりを見せている旨報じました。各種ADRセンターが各地に発足し、行政書士会等によるADR相談窓口の設置も相次いでいるとのことです。紛争の規模や種類に合わせた解決手段の選択肢となりうるADR。今回は裁判外紛争解決手続について見ていきます。
ADRとは
ADRとはAlternative Dispute Resolutionの略で裁判外紛争解決手続、すなわち訴訟手続きによらない紛争解決手段を広く表すものです。当事者間の示談や話し合いといったものと、裁判所による訴訟の中間に位置づけられるものです。訴訟のように厳格な手続を要し、時間もコストもかかるといったものではなく、また当事者だけの話し合いよりも公正で妥当な解決が期待できるといった特徴があります。ADRにはいくつかの種類があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。以下具体的に見ていきます。
ADRの種類
(1)あっせん
あっせんとは、あっせん人が間に入り当事者同士の話し合いによって紛争の解決を図るというものです。あっせん人は当事者双方から話を聞き、また両者含めて話し合いの場を設け相互の歩み寄りを促して合意に導いていきます。紛争当事者の一方からあっせんの申立を行い、相手方にその旨通知がなされ、相手方が手続に応じる場合にあっせん人が選任されることになります。相手方が応じない場合はその時点で終了となります。あっせん人は通常弁護士が担当し時には解決案を提示しますが、当事者はそれを受け入れる義務はなく、納得ができなければ拒否することができます。合意に達し、解決した場合には両者は和解書に調印することになり、和解が成立したことになります(民法695条等)。
(2)調停
調停も紛争当事者の一方の申立によって始まり、あっせんと同様に裁判官や調停委員等が間に入って紛争解決を促します。調停の場合も当事者に解決案を提示することがあり、原則的には当事者は拒否することができますが受諾を勧告し紛争解決をより強く促すことができる制度です。両者が合意に達した場合にはあっせんと同様に和解となりますが、調停の場合には原則的に和解の合意には確定判決と同様の効力が与えられることになり(民事調停法16条、家事審判法21条等)、それにより強制執行を行うこともできます(民事執行法22条5号)。
(3)仲裁
仲裁とは両当事者が第三者である仲裁人に紛争の解決を依頼して、仲裁人の判断に従うという仲裁合意をする手続をいいます。第三者の判断に委ねるという点においてはより訴訟に近いものと言えますが、両者がその手続に服するという合意がなければできない点が異なります。そして仲裁人の判断にはやはり確定判決と同様の効力が与えられます(仲裁法45条1項)。なお強制執行を行うためには裁判所の執行を許す旨の判決を受ける必要がありますが、拒絶事由がない限り原則受けることができます(同46条1項)。仲裁合意のされた事件は不服があっても原則として裁判所の民事訴訟手続による解決を求めることができません(同14条)。
(4)民事訴訟
民事訴訟手続はADRではありませんが比較のために触れておきます。民事訴訟は当事者の一方による訴えの提起によって開始します(民事訴訟法133条1項)。そこに相手方当事者の合意は必要ありません。両当事者は自己の言い分を裁判所で主張・立証し、それに対して裁判官が判決を言い渡し紛争解決を行います。裁判官は随時当事者に和解を促しますが、功を奏さなければ判決に至ります。確定判決には当然に執行力があり(民事執行法22条1号)強制執行を行うことができます。不服がある場合には控訴・上告をすることができます(281条、311条)。
ADRのメリット・デメリット
ADRのメリットとしては、訴訟手続に比べて簡易・迅速で時間もコストも節約することができます。また訴訟と違い非公開であることから紛争の内容や取引の事実等を第三者に知られる心配がありません。また裁判官よりも専門知識を持った専門家や業界関係者が間に入ることによって、より実情に即した解決案が期待できます。そしてADRは基本的に当事者間の円満な合意によって解決を目指すものであることから、その後の両者間の関係維持にも適しています。一方デメリットととしては、ADRはあくまで両者の合意の上に成り立つ制度であることから、当事者の一方が解決に消極的であれば功を奏しません。強制的に解決することができないということです。また裁判官よりも公正・中立性の担保という点で劣る場合があります。
コメント
以上のようにADRを利用することによって紛争を訴訟よりも円満に解決することが期待できます。以前から日弁連や行政によって各種ADRが提供されてきましたが、平成16年に成立したADR推進法により法務大臣に認証を得ることによって、それ以外の業界団体や専門家等がADRを提供することができるようになりました。現在では下請取引、特定商取引、金融商品取引、商事紛争、労働関係紛争、事業再生等について各種の事業者団体や弁護士会、社労士会、司法書士会等が認証を受けております。紛争には相手方やその内容によって様々な規模に分類されます。またその後も相手方とは取引が継続する場合も多々あります。このような場合には最終手段である訴訟による前に、より柔軟で円満な手続である調停や、仲裁が適していると言えます。顧客との商品に関する紛争、従業員との労務問題、取引相手業者との契約関連の問題等様々な場面で現在ADRが用意されております。紛争の実情にあった解決方法を検討し選択していくことが重要ではないでしょうか。
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