佐川急便社員の自殺を労災認定、パワハラについて
2016/11/02   労務法務

はじめに

佐川急便の仙台事業所に勤務していた男性社員が自殺したのは上司によるパワハラが原因であるとして、遺族が労災と認めなかった労基署を相手取り決定取消を求めていた訴訟で27日、仙台地裁は男性の自殺が労災であると認め労基署の決定を取り消しました。今回は労災などの原因となりうるパワハラについて見ていきます。

事件の概要

男性(当時22歳)は2010年3月に佐川急便に入社し、東北支社仙台店(現南東北視点仙台営業所)で経理を担当していました。翌年12月にうつ病と診断され、その4日後に自宅で制服姿で首をつって自殺しました。男性は上司から日常的に仕事のミスで注意を受け、自殺する直前にはエアガンで撃たれたり、つばを吐きかけられたりといった暴行や嫌がらせを受けていたとされます。男性は上司にうつ病になった旨訴えても「そんなの関係ない。迷惑かけられて大変だった」と残務処理を指示しておりました。男性はSNSにこれらの事情を記載し、「色々頑張ってみたけどやっぱりダメでした。」等書き残していました。男性の遺族は2012年2月に労災保険法に基づき遺族補償一時金等の支払の申請を行いましたが仙台労基署は不支給処分としておりました。遺族はこれを不服として不支給決定取消を求め提訴しました。

パワハラとは

パワーハラスメントとは一般に職場における職権などのパワーを背景としたハラスメントの総称です。法令や判例等に明確な定義はいまだ存在しませんが、厚労省のワーキンググループによりますと「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。また厚労省はパワハラの典型例として6つの類型を例示しました。

パワハラ6類型

(1)身体的侵害
殴る、蹴るといった暴行や大きな音を出す、タバコの火を近づけるといったものや長時間立ったまま業務をさせるといった身体的な攻撃・嫌がらせが該当します。パワハラの類型として最もわかりやすい例ですが、場合によって別途刑法犯や不法行為にも該当し得る例です。

(2)精神的侵害
脅迫や侮辱、暴言といった精神的な攻撃を言います。「何をやらせてもダメだ」「役に立たない」「価値がない」といった人格を否定するような発言や「死んでしまえ」といった脅迫的な発言が典型例です。パワハラの類型の中では最も頻度が高いもの言えるでしょう。

(3)人間関係からの切り離し
席や職場を隔離する、仲間から遠ざける、職場ぐるみで無視するといったものです。実例では一人だけ2階の個室に入れられ、本来の業務と関係のない雑務のみを20年間やらされたいったものがあります。部署内で気に入らない部下だけ仲間はずれにするといったものもあります。

(4)過大な要求
常務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制するものです。達成不可能なノルマを課し、達成できなければ怒鳴る、罵るといったものや、長時間残業を余儀なくさせる要求を継続的に行うといったものが挙げられます。これも別途労働法違反に該当し得る類型です。

(5)過小な要求
過大な要求とは逆に、仕事を任せなかったり簡単な作業や単調な作業を延々と行わせるといったものです。実例としては、お茶くみやゴミ捨て等の雑務のみを行わせたり、トラック運転手に新人の送迎のみをやらせたりといったものがあります。これは上記人間関係からの隔離と抱き合わせで行われることが多い類型と言えます。

(6)個の侵害
過剰にプライバシーを詮索したりプライベートなところに過剰に踏み込んでいったりといったものです。休日にも上司に付き合わせて朝まで飲ませたり、プライベートなスケジュールの開示を強要したりといったものが挙げられます。女性従業員相手に行った場合は別途セクハラとなり得るものです。

パワハラの要件

パワハラに該当するかの基準としては一般的に①同じ職場で働く者に対して行われたこと②職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に行われたもの③業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させるものであることが挙げられます。そして精神的・身体的苦痛を与えると言えるかの判断は裁判例によりますと「平均的な心理的耐性をもった人」を基準として判断すべきとしています(福岡高判平成20年8月25日)。

コメント

本件で男性の上司は日常的に男性に対して仕事のミスに対して注意していました。業務上のミスに対して注意をするといったことは「業務の適正な範囲」内であれば当然違法となるものではありません。しかし本件ではつばを吐きかけたり、エアガンで撃たれたりといった暴行も行われており、平素からの注意も「平均的な心理的耐性をもった人」を基準としても精神的苦痛を与えていたと言えるでしょう。仙台地裁も「社会通念上認められる範囲を逸脱した暴行または嫌がらせ行為」と認定し、うつ病は業務上の発症と認めました。セクハラの場合は男女雇用機会均等法等の法令による規制があり、セクハラが認定された場合には是正措置等の義務が生じることになります。一方でパワハラについてはいまだ法令による規制は存在していません。しかしパワハラが行われた場合には会社は民事上の責任を負うことになります。実際にパワハラを行っていた上司に対して不法行為(民709条)による賠償と慰謝料の支払を命じ、会社に対しても連帯して支払を命じる裁判例も多数出ております。また訴訟となった場合は会社の社会的な評価が著しく毀損するものと言えます。パワハラは適正な業務との区別が微妙な例も多いと言えることから、上記の基準を参考にどのような場合にパワハラとなるかを周知することが重要と言えるでしょう。

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