自社株買いが4兆円超え、自己株式の取得について
2016/10/19   戦略法務, 会社法

はじめに

日経新聞電子版は19日、1~9月の上場企業による自社株買いの実施額が4兆3500億円と過去最高を記録した旨報じました。資本圧縮で経営効率を高め、企業統治強化を図る目的とされております。今回は株式会社の自己株式取得とその手続について概観していきたいと思います。

自己株式とは

自己株式とは株式会社が保有する自社の株式のことを言います。自己株式の取得は事実上株主に対しての払い戻しと同様の効果を有することから、会社の資本維持を阻害し会社財産が流出するおそれがあること、特定の株主から取得する場合は株主平等原則に反すること、経営陣が自己株式の議決権を行使する等により会社支配の公正を害すること、相場操縦等の株式取引の公正を害することといった弊害が有り、平成13年の商法改正までは原則禁止されておりました。現在は財源規制(会社法461条)や自己株式の議決権否定(308条2項)、株主総会での特別決議(309条2項2号)、金商法による規制等によってこれらの弊害が対処され、会社法上自己株式取得は一定の要件のもとに認められております。また取得した自己株式は以前は一定の期間内に処分することが義務付けられておりましたが、現行会社法上では制限はなくなりました。また保有自己株式はいつでも消却し(178条1項)、処分することができます(199条1項)。

自己株式の取得ができる場合

会社法155条には自己株式を取得できる場合が1号から13号まで列挙されております。具体的には以下の場合に自己株式を取得することができることとなっております。
①取得条項付株式の取得
②譲渡制限株式の取得
③株主総会決議による株主との合意に基づく取得
④取得請求権付株式の請求権行使による取得
⑤全部取得条項付種類株式の取得
⑥株式の相続人に対する売り渡し請求による取得
⑦単元未満株式の取得
⑧所在不明株主の株式取得
⑨株式に端数が生じた場合の取得
⑩他の会社の事業の全部を譲り受ける場合の取得
⑪合併消滅会社から承継する場合
⑫吸収分割会社から承継する場合
⑬その他法務省令(施行規則27条)で定める場合

自己株式取得手続

自己株式が取得できる場合は以上のように多数列挙されておりますが、今回は株主との合意に基づく取得に絞って見ていきます。株主からの取得には全株主に通知して勧誘する方法、特定の株主から取得する方法、株式市場での公開買付けによる方法と3種類が挙げられます。全株主に通知する場合はあらかじめ株主総会決議によって①取得する株式の種類と数②取得の対価として支払う金銭等の内容と総額③取得期間を定めることになります(156条~159条)。このように株主総会で大枠を決定しておいて、事後そのつど取締役会決議(取締役会非設置会社の場合は株主総会)により具体的に株式数と対価、申込期間を決定します。その後通知を受けた株主が買取を希望する場合には申込みをすることになります。特定の株主から取得する場合は株主総会の特別決議を要します(309条2項2号)。また他の株主は自己も加えるよう請求することができます(160条3項)。これは株主平等原則の現れですが、取得対価が市場価格を超えない場合には適用除外となっております(161条)。最後に市場からの公開買付けの場合は、あらかじめの株主総会による決定(156条)以外の手続は不要となります。

財源規制

自己株式の取得は、株主に対して金銭等を対価として支払うため上記のように事実上の払い戻しであり、会社財産の保護が必要となります。また実質においては剰余金の分配と同視できることから分配可能額を超えてはならないとされております(461条)。また分配可能額が存在していても、会社の純資産額が300万円に満たない場合には配当することができず、自己株式も取得することができないこととなっております(458条)。

コメント

2010年の上場会社における新株発行による資金調達は3兆円を超えていましたが、自社株買取りによる資金返却は1兆円にも満たないものでした。2011年から新株発行額が大幅に減少し自社株買取りの方が多くなり、現在では自社株買取りによる資金の返却が4兆円を超えております。近年上場企業の保有する資本は総額で100兆円を超えると言われており、過剰な備蓄となっている傾向があるとされております。企業の業績に比して保有資本が大きすぎる場合は、株主からの資本を元にどれだけの利益を上げたかを示す自己資本利益率(ROE)が低下することになります。日本のROEは昨年は7.8%で2年連続で低下し投資家からは資本を圧縮し改善を求める声が上がっているとされております。自己株式取得を行うことによって余剰資本を圧縮しROEを改善し、また株価を上昇させる効果も期待できます。また財政面での効果だけでなく市場に流通する株式を圧縮することによって株主の流動を抑制し、経営の安定化を図ることもできます。近年では更に進んで、全株式を市場から拾い上げ100%減資を行った上での上場廃止を行う企業も増えてきており、その準備として自己株式の取得がなされております。企業の柔軟な経営態様の模索に自己株式の取得は有用と言えるのではないでしょうか。

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