東洋ゴムの不正問題と株主代表訴訟
2016/08/03   商事法務, 会社法, メーカー

 東洋ゴム工業が免震装置ゴムの性能データを改ざんした事件について、平成28年7月29日、関西地方の70代の個人株主が、旧経営陣16名を被告として、株主代表訴訟を提起しました。そこで、今回は、株主代表訴訟の手続について多少触れつつ、企業が同様な不祥事に遭わないための対処方法について検討したいと思います。

株主代表訴訟(会社法847条)とは?
 今回の事件は、役員に対して、会社への賠償を求めるものです。すなわち、損害賠償請求権を有するのは会社になりますので、原則として、訴えを提起することが出来るのは会社ということになります。したがって、企業(東洋ゴム工業)自身が訴えを提起することはもちろん問題ありません。
 もっとも、実際に訴えを提起するかを決定する他の役員達が、仲間意識から提訴をためらう可能性は小さくはありません。そこで、株主が一定の場合に訴えを提起することを可能としたのが株主代表訴訟です。

なぜ提訴されたか?
 原告となった個人株主が追及しようとしている責任は、会社法423条に基づく損害賠償責任であると考えられます。
 この責任が認められるのは、役員が「任務を怠ったとき」です。では、旧経営陣は、どういった「任務を怠った」ことになるのでしょうか。
 同法366条4項6号によれば、株式会社の業務の適正を確保するために必要な体制(内部統制システム)を整備する義務を取締役会及びその構成員である取締役は負います。
 東洋ゴムでは、2007年に断熱パネルの性能偽装という、自社製品の偽装という点では今回と共通点のある不祥事が発生しています。
 原告としては、2007の不祥事をきっかけに、自社製品の性能偽装の防止のための内部統制システムを構築・整備する義務があったのに、それを怠ったという主張をするものと考えられます。

対策
内部統制システムの構築・運用
 企業が性能)偽装といった不祥事に巻き込まれないためには、あらかじめ内部統制システムを構築・整備することが重要であるといえそうです。では、どういった内部統制システムを構築・整備すればよいのでしょうか。
 一般的には、内部統制システムは、PDCAサイクルによって構築・運用すべきであるとされています。
 PDCAサイクルとは、事業運営上のリスクを洗出し、評価をした上での体制を構築(Plan)、実際の運用(Do)、構築された体制が機能しているか、あるいは問題がないかの確認(Check)、体制の見直し(Act)、見直した結果に基づく再構築(Plan)という流れをいいます。
 取締役だけでこのサイクルを実現するのは困難ですので、法務・財務・リスク対策といった専門部門を設ける必要があります。
 内部統制システムは必ずしも一切の不正行為を防止しうるものである必要はありません。
 株式会社の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ,株主が損害を被ったことを理由に会社に対して損害賠償請求をしたというやや特殊な事案についての判断ですが(最判平成21.7.9)、①会社が通常の不正行為を防止できる程度の内部統制システムを構築していたこと、②不正行為が巧妙でかつ以前に同様な手口によるものがあった訳でないために容易に想定しがたいものであったこと、といった理由から内部統制システム構築義務違反を否定しています。
 この判例を踏まえると、通常の不正行為のほか、以前の企業内で起きた不正行為を防止できる程度が内部統制システム構築の際の1つの目安となりそうです。
 また、内部統制システムを構築するだけでなく運用できているかを定期的に取締役会等でチェックすることも重要です。

不祥事に直面した場合
 では、このような義務を果たしたにもかかわらず、品質偽装等があったらどうすればよいでしょうか。
 裁判例としては、食品販売会社において、食品衛生法上使用が認められていない添加物を使用した商品が販売されていたことを後から認識した取締役らに、その事実を公表すべき義務があると認められた事例があり(大阪高判平成18.6.9判例時報1979-115)、速やかに公表する必要があるといえます。

さいごに
 品質の偽装等の不祥事は、少なからず企業のイメージを損ねることに繋がりますので、まずは不祥事の発生の防止を徹底することが重要です。また、消費者は、不祥事の隠匿を嫌う傾向が強いので、不祥事が起きてしまった際には、情報開示を含めた早期の措置が求められるといえるでしょう。後者については、下落したイメージの回復の観点からより積極的行うべきです。

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