最高裁が「歓送迎会後の帰社中の事故」を労災認定、労働災害について
2016/07/13   労務法務, 労働法全般

はじめに

会社の歓送迎会出席後、残業のため会社に戻る途中に事故死した男性の労災認定を巡る訴訟で最高裁は8日、二審判決を退け労災を認める判決を言い渡しました。今回は会社に戻る途中の交通事故も労災に当たるのか、労働災害と労災認定について見ていきます。

事件の概要

福岡県苅田町のメッキ加工会社で勤務していた男性(当時34)は、2010年12月、残業を一旦中断し、中国人研修生の歓送迎会に参加していました。その後、研修生を社用車で自宅に送り届けた後、残業を継続するため会社に戻る予定でしたが、途中交通事故を起こし死亡しました。男性は社長への資料提出の期限が翌日に迫っていたことから一旦は参加を断ったものの上司の求めにより参加していました。またその後、残業に戻る予定であることから飲酒もしていませんでした。労働基準監督署は労災を否定し、遺族補償は不支給としていました。それに対し、男性の妻が処分の取消を求めて東京地裁に提訴していました。一審二審は歓送迎会の業務性を認めず、上司が帰社を命じていたとは言えないとして労災を否定しました。

労災とは

労働災害とは「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡等」を言います(労働者災害補償保険法1条)。労災と認定された場合、療養補償給付、障害補償給付、遺族補償給付等の各種給付を受けることができます。原則として1人でも労働者を雇用している事業者は、業種規模を問わず全て適用事業場となり労災保険への加入が義務付けられます。労働者は正規・非正規、派遣、アルバイト等全て含まれますが個人経営の農林漁業で使用労働者数が5人未満の場合は暫定任意適用事業として加入は任意となります。労災が発生した場合事業者は労災保険法とは別に労基署への報告が義務付けられております(労働安全衛生規則96条)。労災給付がなされたが事業者が加入手続きを怠っていた場合には保険料は強制的に徴収されることになります(31条)。

労災認定基準

労災と認定されるための要件は大きくわけて①被災者が「労働者」であることと②「業務上の事由」「通勤」に起因していることが挙げられます(1条)。まず被災者が「労働者」であることについてですが、ここに言う「労働者」とは雇用契約に基いて使用者に雇われている者を言います。通常の従業員や社員は問題なく該当することになります。しかし雇用されている従業員ではなく会社法上の役員は「労働者」に該当しません。この場合でも特別加入手続をとることによって労災保険の適用を受けることができます。次に業務起因性について見ていきます。労災は業務と災害との間に一定の因果関係が認められなくてはなりません。工場での作業中の怪我といったものである場合は比較的認定は容易ですが認定が微妙な判断を要するものも存在します。例えば休憩中の事故は事業者の管理上の欠陥によるものが労災に当たります。また出張中の場合は私的行為によるものと証明されない限り原則労災に当たります。また通勤との起因性については、通常の交通手段、経路を取っている限り労災に当たることになります。私用で寄り道をしたり、大きく経路を外れた場合等は該当しません。

本件判決要旨

最高裁第二小法廷小貫芳信裁判長は、本件歓送迎会は「親睦のために会社が企画した行事で、事業活動に密接に関わっている」こと、資料提出期限が翌日に迫っていることから一旦は断ったが上司から「今日が最後だから」などと参加を求められたこと、「提出期限が延期されず歓送迎会後に職場に戻ることを余儀なくされた」ことから労災に当たるとしました。

コメント

一審二審は、本件歓送迎会が有志で親睦を深める私的な会合であり業務性は無いとし、上司も職場に戻ることは直接命じてはいないとして労災を否定しました。一方で最高裁は本件歓送迎会は会社が企画し会社が参加を求めていることから業務に当たるとし、帰社を直接求めていなくとも提出期限を延期せず戻らざるを得ない状況に陥らせた点から会社の命令による出勤と同視しました。一審二審の判断のように、従来、歓送迎会や懇親会は本来の業務ではないことから業務性が否定されると考えられてきました。しかし、本件最高裁判決のように業務と同視し得る場合には労災が認定される可能性があります。会の目的・意図、企画者、費用負担者、参加の強制、乗務との関連性等の要素によって総合的に判断されることになると言えます。会社主催の飲み会等がある場合にはこれらの点や、その後に業務に戻る従業員が居るのかといった点を考慮し事故が発生しないよう十分に注意を促すことが重要と言えるでしょう。

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