外国公務員に対する贈賄の取り締まりについて
2016/07/05 コンプライアンス, 不正競争防止法, その他

はじめに
日本は、41カ国からなる、OECD外国公務員贈賄防止条約の締結国であり、経済産業省を中心として、外国公務員に対する贈賄防止のための施策を進めています。しかし、腐 敗防止の啓発活動を行う国際NGOトランスペアレンシー・インターナショ ナルの報告によれば、日本の条約の履行状況は、特に低い水準にとどまっています。
日本は、外国公務員に対する贈賄防止のための施策においては、外国から遅れをとっており、6月29日と30日の2日間にわたり、経済開発協力機構(OECD)は、外務省、経済産業省、法務省、警察省などと協議して、「外国公務員に対する贈賄」の取り締まり強化を求めました。
日本企業は、現在中国、東南アジアなどのアジア諸国、アメリカ、ヨーロッパなど多様な国際取引を展開しており、このような企業にとって関わりの出てくるニュースであるため、現状をまとめます。
外国公務員に対する贈賄の処罰規定
不正競争防止法18条は、「外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益の供与する行為やその申込み・約束する行為」を処罰の対象としています。そして、法定刑は、「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」(不正競争防止法21条2項7号)になります。法人に対しては「3億円以下の罰金」(同法22条1項第3号)です。このように、最高刑が科された場合、企業には経済的不利益、企業イメージの低下などのリスクが生じます。
外国公務員に対する贈賄の具体的事例
1999年の不正競争防止法改正以後、外国公務員に対する贈賄の処罰規定が日本において適用されたのは3件にとどまります。
事案①(九電工事件)
九電工の現地法人の役員2名、自社システムの契約締結のために、来日中のフィリピンの捜査局長にゴルフセットを送った事案です。
判決
福岡簡裁は、初めて不正競争防止法18条を適用し、2名に罰金50万円と罰金20万円の略式命令を下しました。
事案②(PCI事件)
大手建設コンサル会社のPCIの従業員が、ベトナムのサイゴンの高速道路の受注おける、有利な取り扱いを意図して、ハイウェイ水環境業務管理局長に現金の供与を約束し、実施済みの業務に対する代金支払等を意図して、現金を供与した事案です。
判決
東京地裁は、PCI社に、罰金7000万円、3名の従業員には、懲役2年、懲役1年6ヶ月、懲役1年8ヶ月を下しました。
事案③(フタバ事件)
2013年に自動車マフラー大手の元幹部が中国地方幹部に贈賄した事案です。中国の現地工場の違法操業を黙認してもらうため、広東省東莞市の幹部に当時のレートで45万円の現金と約14万円相当の女性用バッグを渡しました。
判決
名古屋簡裁は、罰金50万円の略式命令を下しました。
http://www.bakermckenzie.co.jp/material/dl/supportingyourbusiness/newsletter/
disputeresolution/Newsletter_201311_DRNewsletter_13Nov_J.pdf
(参考 ベーカー&マッケンジー法律事務所)
コメント
外国公務員に対する贈賄が処罰対象となってから、外国公務員に対する贈賄の処罰規定の適用は3件にとどまっており、日本は、OECD加盟国の中でも、海外公務員の贈賄の摘発に消極的な態度をとっていたといえるでしょう。しかし、現在、経済産業省は、OECDの要請を受けて、外国公務員贈賄防止に向けての対策を進めており、警察もより積極的に摘発を進める可能性もあります。贈賄の場合、違法行為であるため、発覚後に会社に生じた損害の補填を求める株主代表訴訟に発展するリスクも生じます。経営判断原則の適用も違法行為である場合には、ありません。
もとより、現場担当者が秘密裏で贈賄を行うような事態に備えて、内部通報のルールを定めておくなど、コンプライアンス体制を確保しておく必要もあります。海外取引が関わる法務担当者としては、社内の違法行為に対応する体制を今一度確認されてはいかがでしょうか。
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