株主総会における役員の選任
2016/06/30 商事法務, 総会対応, 会社法, その他

2016年6月、株主総会のシーズンが終わろうとしています。
株主総会では多くの企業が役員の選任を議題としています。
そこで、役員の選任にあたって必要な手続きについて解説していきます。
役員の任期
・取締役の任期
取締役の任期は原則として「2年」です(会社法(以下、略)332条1項)。ただし、非公開会社(発行するすべての株式に、譲渡制限をつけている会社)では、定款によって任期を「10年」まで伸長することができます(332条2項)。
・監査役の任期
監査役の任期は原則として「4年」です(336条1項)。ただし、非公開会社定款によって任期を「10年」まで伸長することができます。(336条2項)
取締役の任期は、定款または株主総会の決議によって短縮することが可能です(332条1項但書)。しかし、再任手続きを要する機会が増えるため、非公開会社で任期を短縮しているところはあまりありません。監査役については、定款や株主総会の決議によって任期を短縮することはできません。監査役の任期を短縮することができないのは、監査役の地位を強化して独立性を担保するためです。
なお、取締役の任期途中で株主総会を開催し、取締役の報酬を減額する総会決議により減額することができないか争われた判例(最判平成4.12.18)があります。最高裁判所は、株主総会がこの取締役の報酬についてこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではない、と判断しました。
役員の選任
1.株主総会での手続き
(1)取締役・監査役の選任には、株主総会の決議が必要です(329条1項)。監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役の同意を得なければなりません(343条)。
裁判例(大阪高判平成3年9月20日)では、代表取締役が取締役会の決議なく招集した株主総会においてなされた決議が不存在とされました。
(2)書面による「みなし決議」
取締役または株主総会の提案した役員選任議案について議決権を行使できる株主全員が書面で同意した場合、株主総会を開催しなくても選任決議があったものとみなされます(319条)。みなし決議であっても、議事録の作成及び株主からの同意書面の備置きが必要です(319条2項)。
2.株主総会の定足数・決議要件
取締役・監査役の選任は、株主総会の普通決議で行われますが、定足数は「議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上」が必要です(341条)
。なお、2014年7月14日、マザーズに上場するオンコセラピー・サイエンス株式会社の定時株主総会において、議決権行使書を含む出席株主の議決権数が、取締役選任議案を決議するのに必要な定足数を満たさず、同議案の審議に至らなかった、という事態が発生しました。
参照弁護士川井信之(東京・銀座)の企業法務(ビジネス・ロー)ノート
3.登記
役員が就任したときは「2週間以内」に変更登記をしなければなりません(915条1項)。もし、株主総会を開催していないにも関わらず虚偽の役員選任の登記の申請をした場合、刑法157条の公正証書原本等不実記載罪に該当します。
参照ほー納得!
株主総会の決議によって選任された者は、会社代表者と委任契約を結ぶことによって、取締役・監査役に就任することになります。実務上は、選任後にいちいち契約書面を交わすことはなく、事前に役員候補者から就任承諾を得ておくことでことで済ませることが多いです。
コメント
役員の任期を伸長すると、再任手続き(株主総会決議及び登記)が不要となり、時間と費用を節約できます。一方、会社が役員の退任を希望しても、任期が残っているケースが考えられます。会社は役員を株主総会の決議によっていつでも解任することができます(339条1項)。しかし、解任に正当な理由がない場合、会社は役員に対して損害賠償が必要となります(339条2項)。賠償額は「任期満了および任期満了時に得られたであろう報酬額」が目安なります。したがって、役員の選任期間が長いほど損害賠償の額が高額となるおそれがあるので、選任期間は慎重な判断が必要です。また、自社の株主全員から容易に賛成書面が集められる会社であれば、「みなし決議」の利用を検討してはいかがでしょうか。
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