王将FSの不適切取引と取締役会の承認
2016/04/05 商事法務, 会社法, 外食

はじめに
王将フードサービス(王将FS)は3月29日、2013年に発生した当時の社長大東隆行氏の射殺事件をめぐって設定していた第三者委員会の調査報告を公表しました。それによると取締役会の承認を経ていない経済合理性の疑わしい多額の不適切取引が行われていたことが判明いたしました。今回は会社の取引と取締役会の承認について概観していきたいと思います。
事件の概要
2013年12月19日早朝、京都市山科区の王将本社前にて、当時の社長大東氏が何者かに射殺されました。その後の捜査で、現場付近の遺留品から九州地方の暴力団員のDNA型が検出され、警察は九州方面を集中的に捜査する方針を固めました。それを受け王将FSでは反社会的勢力との関わりが無かったかを調査するために第三者委員会を設置しました。3月29日の第三者委員会の調査結果発表によりますと、反社会的勢力との関係は否定されたものの、王将FSと創業者と関係の深い企業グループの間で多額の不適切取引が行われていたことが判明しました。10億円にのぼる土地買収を同企業グループ社長に依頼、5億円のビルを同企業グループから購入後第三者に8000万円で売却、同企業グループに土地買収委託名目で33億円の交付(実質貸付)、子会社を通じて同企業グループへ185億円の貸付(そのうち約40億円は回収不能)等があげられ、これらの取引には取締役会の承認を経ていないか、経ていても事後承認となっていました。
取締役会決議を要する取引
会社法では「重要な財産の処分及び譲受け」を行うには取締役会の決議を経なければならないとしています(362条4項1号)。これらの取引は会社の財産状況や取引に重大な影響を及ぼすものであることから、取締役の独断専行を防止して取締役会で慎重に判断させるべきとの考えによるものです。「重要な財産」に当たるかについては、判例は個別的に判断しています。
■重要な財産
「重要な財産」に該当するかは、財産の価額、会社の総資産に占める割合、保有目的、処分の態様、会社における従来の取り扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきとしています(最判平成6年1月20日)。会社資産に占める割合は低くても、営業のために通常行われる取引に当てはまらない場合は該当すると判断される傾向にあります。
取締役会決議を経ていない取引の有効性
以上のように「重要な財産の処分」に該当する場合には取締役会の承認決議を経る必要があります。この承認決議を経ていない取引の有効性について判例は、相手方の取引の安全を配慮して、そのような取引でも内部的意思決定を欠くにとどまるから原則として有効であり、相手方が決議を経ていないことを知っているか、知り得た場合には無効とするとしています(最判昭40年9月22日)。
コメント
以上の判例の考え方からすれば、今回の王将FSの行っていた取引の多くは「重要な財産の処分及び譲受け」に該当することになると言えます。そして取引相手も王将FSと縁の深い創業者一族が経営する企業グループであることから取締役会の決議を経ていないことは知っていた、あるいは知り得たと言えるでしょう。よってこれらの取引は多くが無効であると判断されうるものであり、当時の役員等はそのような取引を行ったとして任務懈怠等の責任を負う可能性があります(423条等)。このように同族経営の会社では商法や会社法所定の手続きが履践されていないことも多く、後々このような不適切取引として発覚することも多々あります。経営陣同士では責任を追求しない方針でも、株主からの責任追及(株主代表訴訟等847条)もあり得ることから、どういった場合に取締役会の承認決議を要するのか等を今一度確認し、手続きを見直すことが重要と言えるのではないでしょうか。
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