報復的訴訟、SLAPP訴訟とその問題点
2016/03/24 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

はじめに
近年広まりつつあるSLAPP訴訟という考え方。個人や住民団体といった比較的弱者に対し、報復的な訴訟を繰り広げる事例が増えてまいりました。今回はいわゆるSLAPP訴訟とその問題点について見ていきたいと思います。
SLAPP訴訟とは
SLAPP訴訟とは、アメリカで考えられた概念で、Strategic Lawsuit Against Participationすなわち市民の関与を排除するための訴訟戦術の略だと言われています。例えば企業の不正等の問題点を発見した個人やジャーナリストや市民団体が、その点について訴えたり、発表や陳情を行った場合に、それらの行為に対して圧力をかけて辞めさせる目的で訴訟を提起する場合を言います。オリコン社がフリーランス記者に対し名誉毀損で5000万円の損害賠償を求めた訴訟でも、オリコン社は賠償を求めることではなく、誹謗中傷を認め謝罪することと引き換えに訴えを取り下げることが目的であったとしています。ジャーナリストの記事掲載に圧力をかけることが主たる目的と言えることから、これもSLAPP訴訟の一例と言えるでしょう。
SLAPP訴訟の問題点
このようなSLAPP訴訟の問題点は、弱い立場の言論や正当な陳情を強い立場の組織が圧力をかけて封殺することにあります。アメリカでは巨大企業によるSLAPP訴訟によって、それに屈した新聞社が記事を書いた記者を解雇したという事例もあります。このような訴訟は基本的に勝訴することはできず、敗訴することは当初から想定されています。通常ならそのような訴訟は避けますが、訴訟を起こし圧力をかけることが目的であることから法外な額の賠償を求めて執拗に訴訟追行します。たとえ勝訴することが確定していても、被告は裁判所に出頭して応訴を強いられ、その分業務はできず交通費や弁護士費用を負担することになります。立場の弱い零細の個人や中小企業では、それだけでも相当な負担となり言論や陳情を断念することになります。直接訴えられた被告以外も、そのような様子を見て公的発言をためらうようになり、訴える側からすれば問題を沈静化させる効果も期待できます。
SLAPP訴訟対応策
上記のようなSLAPP訴訟の問題に関してアメリカでは表現の自由を揺るがす行為であるとして、法的に禁止する動きが出ています。カリフォルニア州では反SLAPP法が制定され、被告側がSLAPPであると陳述し、裁判所が認めた場合は請求棄却され、費用を原告に負担させるという運用がなされています。これに対して日本ではまだ法的な対応策は手付かずの状態です。近年こういった報復的訴訟が問題視されはじめた段階であり、政府行政レベルでの対応の動きはまだ見られておりません。まずはこういったSLAPP訴訟の弊害や問題点を広く周知させる必要があるでしょう。
コメント
SLAPP訴訟は経済的強者の不祥事や不正を隠蔽する手段に使われ、弱者の権利や表現の自由を侵害する恐れがあります。一方で訴える側にとっても、真に名誉や社会的評価を侵害されている場合もあり、それらを回復するために訴える以外に手段が無い場合もあります。表現の自由と裁判を受ける権利はいずれも憲法で保障された人権であり、両者の調整を図ることが重要です。そこで第三者から客観的に見ても明らかに報復的SLAPP訴訟であると言える場合には、被告側に資金的に補助する公的機関やNPO団体の設立等を考慮してもいいのではないでしょうか。
関連コンテンツ
新着情報

- 業務効率化
- クラウドリーガル公式資料ダウンロード

- 解説動画
大東 泰雄弁護士
- 【無料】優越的地位の濫用・下請法の最新トピック一挙解説 ~コスト上昇下での価格交渉・インボイス制度対応の留意点~
- 終了
- 視聴時間1時間
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号

- まとめ
- 中国:AI生成画像の著作権侵害を認めた初の判決~その概要と文化庁「考え方」との比較~2024.4.3
- 「生成AIにより他人著作物の類似物が生成された場合に著作権侵害が認められるか」。この問題に関し...

- ニュース
- 都内大手ホテル15社、価格カルテル(独禁法)のおそれで公取委が警告へ2025.4.21
- 都内の大手ホテルを運営する15社が客室単価などの情報を共有していた件で、公正取引委員会が独占禁...
- 弁護士
- 目瀬 健太弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号
- セミナー
森田 芳玄 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 パートナー/東京弁護士会所属)
- 【オンライン】IPOを見据えた内部調査・第三者委員会活用のポイント
- NEW
- 2025/05/21
- 12:00~12:45

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分

- 業務効率化
- 法務の業務効率化