内部告発者はどう保護される?~大王製紙の内部告発者解雇に関する判決について~
2016/01/21   労務法務, 労働法全般, その他

1 事案の概要

 内部告発後に降格や懲戒解雇処分を受けた大王製紙の男性が、処分の無効確認などを求めて同社を訴えていた訴訟について、その判決が今月14日に下された。その内容は、降格処分などは不当とはいえないが、出向命令には合理性がなく、出向命令の拒否を理由とする懲戒解雇処分は無効であり、解雇後の給与の支払いを同社に命じる、というものだった。
 今回は、この判決について少し検討してみようと思う。

2 検討①

 男性は2012年、海外の現地法人などの関連会社の決算処理に不正があるとの告発文書を作成し、経営陣と対立していた関係者に不適切会計に関する内部告発状を手渡すなどしていたとのことである。
 判決では、この内部告発について、「伝聞や推定を根拠としており、裏付ける客観的資料が乏しく、目的も経営陣を失脚に追い込むためで正当性を欠く」と指摘したうえで、「真実ではない告発状で会社の名誉を毀損し、就業規則に違反しているため、就業規則違反による降格処分は不当とはいえない」と判断している。
 公益通報者として保護される要件の一つには、「通報が不正の目的でなされていないこと」がある。判決が通報目的に言及し、正当性を欠くと指摘していることからすれば、今回の事例では、この保護要件を満たさなかったといえるだろう。
 また、男性の告発は、「内部通報」(注)と思われるため、保護要件として、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料すること」が求められる。判決が内部告発の事実は客観的資料が乏しいと指摘していることからすれば、今回の事例では、この保護要件も満たさなかったといえよう。
 以上のことからすれば、男性は結果として懲戒解雇無効判決を得るには至っているものの、男性が公益通報者として保護された者ではないということとなる。
 (注) 公益通報者保護制度では、通報先ごとに保護要件が変わる。通報先の分類としては、「内部通報」「行政機関通報」「外部通報」の3つがある。
    参考記事:公益通報者保護制度のこれから

3 検討②

 では、この判決をどうみるべきか。
 まず、男性は関連会社への出向を命じられ、この命令に従わなかった結果、2013年3月に懲戒解雇処分を受けるに至っている。この点について、判決では、「勤務経験のない部門への出向で合理的とは言えず不相応であり、実質的に懲戒目的といえ、出向命令権の濫用に当たる」と指摘し、出向命令拒否を理由とする解雇を無効と判断している。
 とすると、裁判所は、出向先の部門や対象者の経験を踏まえた出向命令の合理性、内部告発から処分までの期間の近接性等を考慮した上で、内部告発者に対する処分が、内部告発行為に対する報復措置として人事権の濫用となると判断したとみることができる。

4 おわりに

 今回の判決は、公益通報者保護制度により保護された結果として、懲戒解雇処分が無効となったわけではないことに注意しなければならない。
 もっとも、内部告発者が同制度により保護されない場合であっても、内部告発者は人事権の濫用の認定により保護される場合があるという一つの事例を示したものと評価できるのではないだろうか。一方で、企業側は、内部告発者に対する人事異動等の処分が不合理であると評価された場合、人事権濫用と評価される場合があることに備える必要が生じたともいえよう。

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