ヤマト運輸メール便廃止事例から紐解く郵便法「信書」問題
2016/01/05   法務相談一般, 民法・商法, その他

1 はじめに

 2016年が明けて早5日となった。
 新年を祝う気持ちをこめた挨拶として、年賀状を利用された方も多いことと思う。
 年賀状は郵便法における「信書」に当たり、日本郵便が独占的に送達することが認められているものである。
 日本郵便以外の者が、「信書」の送達をすると罰せられると郵便法に定められている。
 この郵便法の規定について、ヤマト運輸がメール便を廃止した事例を通しておさらいしたい。

2 ヤマト運輸、メール便の廃止

 国内流通最大手のヤマト運輸が、2014年3月31日受付分をもってメール便を廃止すると発表した。メール便は、全国一律料金で送付先の郵便受けなどに荷物を配達するサービスで、低額な価格と利便性から多く利用されていた。
 郵便法における「信書」の定義が顧客に分かりにくいにも関わらず、信書をメール便で送ると、荷物を預かった運送事業者だけでなく、送った顧客までもが罰せられることが法律に定められているため、信書に関して法違反の認識がない顧客が罰せられるリスクが存在していた。このリスクをこれ以上放置することは社会的責任に反する、としてヤマト運輸はメール便の廃止を決めた。問題となった郵便法とは、どのような内容なのだろうか。

3 郵便法の規定

 郵便法は、昭和22年に制定された法律で、その目的として「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによつて、公共の福祉を増進すること」を掲げている(郵便法1条)。具体的には、郵便の役務の内容や取り扱いについての種々の規則を定めると共に、違反した場合の罰則も設けている。
 今回、メール便との関係で問題となったのは同法4条2項だ。同条では、日本郵便株式会社以外の者が「他人の信書」の送達を行うことを禁止することを定めており、違反した場合は同法76条により「三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金」という刑罰が定められている。
 同法4条2項で「信書」についても定義があり、「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」が信書に当たる。たとえば履歴書などは、応募者が企業に送る場合は応募の事実を通知した文書とみなされるため信書に該当する。企業が応募者に返送する場合は、履歴書に事実の通知がないとして信書に該当しない。ただし、合否の通知とともに送付する場合は、その通知文が信書とみなされる。

4 信書の配達を日本郵便の独占とすることの合理性

 では、なぜ郵便法は信書の配達の独占を日本郵便に認めているのか。
 郵便は重要な通信インフラであり公共性が極めて高いことから、原則として日本全国に一律料金で届けること、利用の公平を確保することなどの条件が課されている。また、憲法が保障する通信の秘密(憲法21条2項後段)に基づき、信書の内容の秘密が厳重に確保されることなど、郵便事業者に対し厳しい規制がかけられている。
 一般の信書送達を民間に認めると、確実に儲かる大都市圏や配りやすいところだけ受注してその他の地域は受注しないという恐れが生じる。そうすると、郵便法の目的である「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供する」ことの実現は難しくなる。
 信書の配達を原則的に日本郵便に独占させることには、日本郵便が、郵便局やポスト設置など、全国にちりばめられた集配ネットワークを持ち、地域による分け隔てのない便益の提供義務をはたせることから、一定の合理性が認められる。

5 残された問題

 「信書」の定義が曖昧であるという問題は残る。ヤマト運輸の報道発表でも、郵便法により規制される信書と、規制を受けない書籍や書類との区別が曖昧で、利用者が明確な区別ができず、郵便法違反で検挙されるおそれがあるとしている。また、総務省に問い合わせても信書かどうか即答できない事例が多発しているという。
 今のままでは便利なサービスがあっても国民は安心してモノを送れない。規制の対象を誰でも分かるよう、はっきりさせるべきだ。ドイツや米国では送付物の重さなどによって規制の対象を明確にしている。こうした外形基準を導入すれば、たとえばメモを入れた小包であっても、一定以上の重さがあれば誰が配送しても罰せられることはなく、無用の混乱は回避できる。
 「信書」については、民間企業から規制改正の要望が出ている。しかし、総務省の情報通信審議会・郵政政策部会が2014年3月にまとめた中間答申は規制の見直しに消極的な見解を示しており、以降規制改正の動きは見られていない。現状の問題解決のため、政府による早急な見直しを期待したい。

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