広州恒大の事件の根本、スポンサー契約とは?
2015/12/17   契約法務, 民法・商法, その他

1.概要

 中国のサッカークラブチーム「広州恒大」が、スポンサー契約を結ぶ日産自動車の中国合弁会社「東風日産」に、スポンサー契約違反を理由に約6億円の損害賠償を求める訴えを提起された。
 広州恒大と東風日産とは、昨年の1月に約20億円で2年間のスポンサー契約を締結していた。この契約により、広州恒大は胸ロゴに社名の「東風日産」を記載したユニフォームを着用し、これまでの試合に臨んでいた。ところが、広州恒大は、11月21日に開催された、サッカー・AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝セカンドレグの対UAEのアル・アハリ・ドバイ戦において、東風日産に無断で、広州恒大の親会社の傘下会社である「恒大人寿」と記載されたユニフォームを着用し、試合に臨んだのである。
 広州恒大は事前に東風日産に対し、決勝戦において別の広告を入れたいと打診していたが、東風日産はこれを拒否したとのことだ。契約では双方の合意がなければ広告の変更はできないと定められていたため、東風日産の同意なく行われた広州恒大による広告変更はスポンサー契約違反となる。その結果として、東風日産は今回の提訴に踏み切ることとなった。
 以上が事件のあらましである。

2.スポンサー契約とは

 主に、企業がスポーツチームや選手に対して一定金額のスポンサー金という経済的支援を行う代わりに、自社の名前やロゴをユニフォームやジャージ等に表示できる権利を得るという契約である。チームや選手にとっては、経済的支援を受けることで本業のスポーツに専念でき、企業にとっては、チームや選手の活躍により自社の宣伝効果が期待できる、ということに双方の利点がある。また、自社の宣伝広告以外にも、スポーツ支援活動という企業の社会活動の一環という側面もある。

3.スポンサー契約の注意点

① 権利内容の明確化 一
 スポンサー契約によって企業が取得する権利は様々だ。自社の名前等をユニフォーム等に表示できる権利だけでなく、自社のポスター等にチームや選手の写真等を使用する権利や、自社製品をチームや選手に使用してもらう権利などがある。これらはスポンサー契約の内容によって変わり得るものであるため、契約締結の際には、権利内容を明確にし、これをしっかりと契約書に記載しておく必要がある。

② 権利内容の明確化 二
 自社の名前等をユニフォーム等に表示できる権利を契約書に記載した場合でも、その表示方法等を明確にしておく必要がある。ユニフォームのどの部分に表示するか、大きさはどれくらいか、といった具合である。チームや選手は他の企業と同様のスポンサー契約を締結している可能性も十分にあるため、表示方法を明確化していなかった場合、他の企業は胸の部分に大きく、自社は目立たない部分に小さく、という事態もありえ、トラブルの元になってしまう。

③ 競業他社の考慮
 自社と競業他社とのロゴが同時に表示されると、自社の宣伝効果が軽減してしまうおそれがある。そのため、競業他社のロゴ等を表示しない旨や、表示する場合の表示方法についても予め考慮しておき、契約内容に反映させる必要がある。

④ 肖像権の考慮
 選手の肖像権使用について他社と専属的な契約が締結されていないか、肖像権を使用できるのは国内に限定されるか、といった肖像権の使用の有無やその範囲について契約内容に反映させる必要がある。

⑤ マネジメント契約の有無の確認
 チームや選手が特定の会社とマネジメント契約を締結している場合があるため、契約当事者がマネジメント会社となる可能性がある。この場合、マネジメント会社が同契約によりスポンサー契約を締結する権限を有しているか、マネジメント契約が終了した場合でも、チームや選手がスポンサー契約上の義務を継続して負担することとなるのか、といった点を確認する必要がある。

4.コメント

 筆者が調べた限りでは、日本における今回のスポンサー契約違反事件と類似の事件の発生は確認できなかった。スポンサー契約については、裁判例もそれほど蓄積されていないのが現状のようだ。スポンサー契約を締結する上では、契約書に権利内容や範囲を明確化して記載し、いかに紛争を予防できるかが重要となってくるといえる。今回の記事で触れた注意点も一部にすぎない。スポンサー契約書の記載内容をしっかりとチェックし、思わぬトラブルが発生しないように注意を払いたい。

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