フォルクスワーゲン排ガス不正問題
2015/11/10 コンプライアンス, 民法・商法, その他

1.フォルクスワーゲンの不正の影響
フォルクスワーゲンは、11月2日米国で販売した自動車について新たに約1万台の排ガス不正が見つかったと発表した。その内訳は、高級車ブランドで知られるポルシェのカイエンやアウディのA6などが含まれている。
11月12日付け日本経済新聞電子版など複数のメディアは、排ガス不正がポルシェやアウディなどの傘下の企業にも及んでいると報じた。
果たしてフォルクスワーゲンでは、コンプライアンスおよびコーポレートガバナンスが機能していたのだろうか。
2、排ガス不正の実態
排ガス試験は、屋内で車体を固定して加速や減速を繰り返し、排ガスに含まれる有害物質の量を調べるというものである。
フォルクスワーゲンでは、試験走行でハンドルが固定されることを利用してハンドルが動かないときだけ排ガス浄化装置をフル稼働させる違法なプログラムを車載ソフトウェアに組み込んでいた。
通常走行時は排ガス浄化装置が十分働かないようにして走行性を高めていたようだ。
この排ガス不正の影響は、全世界で1100万台が影響を受ける見込みだ。そのうち日本では、計24車種で91015台、アウディが計3車種で13752台が影響を受ける。
3、コンプライアンスについて
フォルクスワーゲンでは、2007年頃に偽装に用いられたソフトにつき実車で活用すれば違法であるとのボッシュ社の報告書が届いていた。さらに、2011年には社内技術者が不正の存在を指摘していたことが判明した。
そうすると、フォルクスワーゲンでは、2回の内部告発があったにもかかわらず、法令違反の是正の機会を逸した。その結果、排ガス規制が見過ごされ被害の拡大につながっている。もっとも、2回の警告時点で問題への対処がなされなかった理由は明らかになっていない。
4、コーポレートガバナンスについて
フォルクスワーゲンは、戦前のナチス政権下での国策企業であり、戦後民営化された後もVW法で新規の株主の議決権が制限されていた。これは、自由経済体制の中で切磋琢磨し合理化経営をしてきた他の欧米企業とは異質である。また,、初代開発者ポルシェ一族等が議決権の過半数を握っている。
ドイツにおけるコーポレートガバナンスは、特殊である。具体的には、「労資の共同決定権」という思想があり、監査役会で経営者の人事を決定している。この監査役会は、労働者側出身、経営者出身の同数の監査役およびそれと議長からなる。この制度は、日本では採られておらず、オーナーの権限が制限される方向にあり社会主義の影響が大きい。
フォルクスワーゲンの監査役会は、20席ある席のうち労働者側、企業側でそれぞれ9席割り当てられており、残りの2席を州政府が持っている構成になっている。
5、改善について
(1)コンプライアンスについて
フォルクスワーゲンは、ダイムラーからクリスティネ・ホーマンデハルト氏を招きコンプライアンス担当取締役として社内体制の見直しを進めると発表した。
ホーマンデハルト氏は、2010年ダイムラー社で起こった贈賄事件を受けダイムラー社でコンプライアンス体制を構築している。
これは、コンプライアンスの実績のある取締役を経営陣に迎えコンプライアンス体制を一新する方針であると思われる。
(2)コーポレートガバナンスについて
フォルクスワーゲンでは、ポルシェ家とピエヒ家が大株主として過半数の議決権を握り経営を行ってきた。オーナーが絶大な権力をもち強権政治を行ってきたという点で所有と経営の分離から程遠いのが経営の現状である。「労資の共同決定権」のもとにある監査役会という制度があってもオーナーの権力を制限するのは事実上難しい。新社長に就任したマティアス・ミュラー氏は、新体制での信頼の回復を発表している。
今後、新体制を構築するには、世論を背景にポルシェ家等の株主の影響を制限していくことが必要であると思われる。
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