休みが取れない日本の現実
2015/09/02   労務法務, 労働法全般, その他

1 概要
労基法は、年次有給休暇の取得権を労働者に付与することを最低限のルールとしている。しかし、「取得しにくい」といった職場環境から、年次有給休暇の取得率は48.8%と低い水準にあり、その原因は、いつ取得するかが、労働者の申請次第になっていることにある。そこで、平成28年4月から、従業員に年5日の年次有給休暇を取得させる義務を企業に課す方針で、労働基準法改正案の調整が進められている。この制度の問題点や影響について取り上げる。
2 制度の概要
年次有給休暇とは、一定期間継続勤務した従業員に、疲労回復を目的として事業主が付与する休暇で、給与をもらいながら休むことができる制度である。法律では、入社から6カ月経過して、全労働日の8割以上出勤したときに、10日の有給休暇が付与される(労働基準法第39条)。年を重ねるごとに日数は増えていき、入社から6年6か月以降は、8割以上の出勤率を満たしている場合に限り、20日の有給休暇が与えられる仕組みになっている。新しい制度では、年10日以上の有給休暇を与えられる従業員に、毎年時季を指定して年「5日」の有給休暇を取らせることを企業の義務化とする。ただし、従業員がすでに5日以上の有給休暇を取得している場合については義務は生じない。例えば、従業員がすでに3日の有給休暇を取得している場合には、会社側は2日の有給休暇を取らせなければならないし、5日以上有給休暇を取得している場合には義務は生じない。このような義務に違反した場合には、罰則を科すことも予定されている。また、会社が時季を定めるにあたっては、社員側の意見を聞くべきことが努力義務として定められることが予定されている。
3 働く立場にとっての懸念点
有給休暇義務化の制度自体が『骨抜き』になってしまうことは最も懸念すべき点である。具体的には、休暇が増えることで仕事が終わらず、書類上は有給休暇を取得したことにして出勤させられる、あるいは自発的な責任感から出勤したり、自宅に仕事を持ち帰って有給休暇の取得日に仕事をして結果的に休暇がとれないことがあげられる。また、すでに5日以上の十分な休暇が確保できる職場で働く人であっても、年5日の有休義務化は、企業が従業員に休暇希望を聞くことが努力義務である以上、希望する時期の休暇をとることができない可能性があり、自由に希望休暇日を決定できないおそれがある。また、義務化がされない残りの年次有給休暇日数に関しては、企業に義務がないため、労働者が自主的に年次有給休暇を消化しにくいといった問題は残るので、この制度が有休休暇を取りにくい現状を解決するものとはいえない。
4 コメント
労働者にとって、上述したような問題点も含んでいるためこの制度によって働き方が大きく変わるものとはいえないだろう。企業側としては、上述のような懸念点を生じさせれば、新卒者に悪い噂が流れ、良い人材を確保できない、また多くの転職者を出してしまうことも考えられる。そこで、この5日の有休義務化をきっかけに、企業側が、仕事効率化を図る体制をとり、働きやすい職場環境へ改善していくように取り組むことが大きな課題といえるだろう。
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