秘密保持契約書で本当に秘密は守られるか①
2015/04/09 契約法務, 民法・商法, 不正競争防止法, その他
概要
企業間での取引前に交わされることの多い秘密保持契約。しかし、その内容は以外にも簡潔なものが多く、実際秘密が守られるのか疑問を抱かざるを得ないものも多い。そこで、今回から数回に渡り、秘密保持契約書の在り方を考えてみたい。
よくある問題点
(1)口頭で開示した秘密情報の特定の問題
はじめに、秘密情報の定義について、「「秘密情報」とは、文書、口頭、その他方法のいかんを問わず、いずれかの当事者より相手方当事者に対し、本件に関連して開示しまたは将来開示される資料及び情報」とする企業も多いのではないだろうか。
しかし、実際、口頭で開示した情報を秘密情報として保護するのは困難である。なぜなら、仮に相手が秘密保持義務違反をしたとしても、裁判では、自社において相手方が秘密情報を不正利用したことを立証しなければならない。その際、口頭で開示した事実の範囲を特定することは極めて困難であると言わざるを得ない。したがって、責任追及の困難性から、相手方に対する情報漏えいの歯止めが効きにくい。
(2)不正競争防止法による差止請求上の問題
また、不正競争防止法3条による差止請求を行う場合、「営業秘密(2条1項6号)」にあたることが要件となるが、営業秘密というためには、さらに「秘密管理性(2条7項)」を要する。「秘密管理性」の要件は、判例によると、①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること。②当該情報にアクセスできる者が制限されていることとされている(東京地判 平12.9.28)。
具体的には、施錠されたキャビネットに納められたフロッピーに収録された名簿で、鍵やプリントアウト行為は限られた上長が管理し、「マル秘」印も有ったというような厳重に保管されていて、客観的にも明らかな情報につき秘密管理性を認めている。他方で、机の上に無造作に積まれた名簿や、担当者のみが鍵を有するキャビネットに保管されていたが、「マル秘」印無しの名簿については秘密管理性が認められていない。
上述の判例からしても、秘密管理性の要件をクリアするためのハードルが高く、不正競争防止法上の差止請求が受けられない恐れもある。
対策
上述の問題点を解決するためには、口頭で開示した内容について、証拠保全の観点から書面による事後確定等を規定しておくべきだろう。また、不正競争防止法上の観点から、秘密情報について物的、人的管理をする必要がある。
具体的には、口頭で開示した情報については、「口頭で開示した情報のうち、●●日以内に書面で秘密である旨を確認した情報」と規定し、証拠化をはかるべきだろう。これについては、経済産業省の営業秘密管理指針においても「口頭で開示された場合の開示内容の書面による事後確定等」が必要であるとしている。
また、開示する資料等については、マル秘等の印を付けた上で、アクセスできる者を制限する等の物理的管理に加えて、従業員教育等の人的管理も必要となろう。
コメント
秘密保持契約書は、本契約前の形式的なものとしてぞんざいにされる場合もあるかもしれないが、秘密情報の漏えいは企業にとって死活問題であり、厳重に守られる必要がある。
また、秘密保持契約書一つをとっても、雑な契約書ひな形を作成しているようでは、相手方の信頼確保も得にくくなる恐れがある。より良いパートナーシップの構築のためにも、きっちりした秘密保持契約書の作成は有用であろう。
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