大手保険会社,損保契約での反社会的勢力排除を強化へ
2013/11/19 コンプライアンス, 民法・商法, 金融・証券・保険
事案の概要
これまで,損保会社各社は損保契約の相手の如何に係わらず,契約相手方には保険金を支払ってきた。この相手方が暴力団など反社会勢力に所属している場合,期せずして保険金の支払いが反社会勢力への資金提供の側面を有することになる。また,保険金詐欺など,犯罪の抜け道として利用される危険が高くなる。それでも,契約相手方である以上は損保会社は保険金を支払わざるを得なかったのが実情であった。
近年,暴力団排除の動きが高まってきたことを受け,本年10月以降,各損保会社は暴力団排除条項を導入してきた。この条項によれば,反社会的勢力に所属・便宜供与している場合や,反社会的勢力を不当に利用していると認められる場合,各損保会社が損保契約を解除できるとされている。もっとも,この条項は,契約後保険金の請求段階に到って不正請求でないかを確認するものである。また,損保会社では,通常,契約者が暴力団関係者かかどうかの全件調査はせず,代理店が事前に把握,または事後的に判明する限りで個別対応をしてきた。
そもそも損保会社は契約段階での反社会勢力排除をしてこなかった。その背景には,事故被害者救済を十分なものにするという目的があった。そのため,支払請求の段階で反社会的勢力であることが判明しても,事故時点で損保契約が存続している場合,保険金が支払われることになっていた。
このことを踏まえ,大手損保各社では,契約後にデータベースを用いて反社会的勢力かどうかを1件ずつ調べる「全件チェック」を導入することが検討されている。契約後に調査をする事で,少しでも反社会的勢力との取引の可能性を遮断することが目的である。
ただし,暴力団組員であること等が発覚して保険契約が解除された場合,無保険となる。その者が事故を起こしてしまった場合,被害者への救済が不十分になる可能性が高い。「全件チェック」の導入には被害者救済のシステム構築が要求されることとなろう。
コメント
コンプライアンス確保の観点から言っても,損保会社の社会的責任の観点から言っても,反社会勢力への利益供与の芽を摘む暴排条項の導入はやむを得ず,また,必要とされる事項だったといえよう。大手銀行と反社会勢力の関係が取り沙汰されている昨今において,更なる反社会勢力への対抗手段が要求される。もっとも,保険契約の解除を認めるとしても,その後の処理は慎重を期する必要がある。無保険となった場合に,無保険者の事故の被害者が泣き寝入りとなってしまう結果だけは回避しなければならない。
そのためには,国が政策レベルで救済を図る必要が生ずるのではないだろうか。
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