戦後賠償と企業活動
2013/09/20 海外法務, 海外進出, 外国法, その他
事案の概要
朝鮮半島の植民地時代に日本の製鉄所で強制労働させられたとする韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)に損害賠償を求めた訴訟の差し戻し控訴審判決で、ソウル高裁は13年7月10日、「日本製鉄による募集、強制労働は、日本政府の朝鮮半島の不法な植民地支配と侵略戦争遂行に直結した反人道的な不法行為」と認定し、請求通り1人当たり1億ウォン(約880万円)を支払うよう命じる原告勝訴の判決を言い渡した。この判決に対して、日本政府は、「我が国の一貫した立場は、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の請求権協定により完全かつ最終的に解決済みである」として、判決を批判している。また、新日鉄住金側も、「徴用工等の問題を完全かつ最終的に解決した1965年の『日韓請求権協定』、すなわち国家間の正式の合意を否定するなど不当な判決」として、7月30日に大法院(韓国最高裁)に上告するという展開になっている。
コメント
「請求権」(日韓請求権協定前文、2条1項)についての韓国側の立場は、1965年の日韓請求権協定は、サンフランシスコ条約4条(a)の日韓両国の財政的・民事的債権債務関係を解決するためのものであり、慰安婦問題や強制労働被害等は請求権協定の対象に含まれないというものであるとしている。確かに、日韓協定には、「両国及びその国民の財産並びに両国及びその国民の間の請求権に関する問題を解決することを希望」(日韓協定前文)と規定されているのみで、植民地支配や戦争被害については言及されていないことから、「請求権」に戦争被害は含まれないという解釈も成り立ちうる。条約の締結過程の記録により韓国側の解釈が正当だということが証明されたならば今後も個人に対する賠償問題が広がり、企業活動にも支障をきたすおそれがある。
日韓両国は、貿易・投資の拡大に加え、第三国におけるプラント受注や資源開発を目的とする日韓企業間の連携が増大する等、両国の経済関係は極めて緊密な関係にある。こうした中で、条約交渉過程の詰めが甘いと今回のような問題に限らず様々な問題が後々出てくる。国家間の条約締結権限は、基本的に政府の役割ではあるが、企業の法務担当としては、予測可能な問題に関しては政府や関係省庁に積極的に提言していくことも求められている。そうすることで、海外での企業活動を有利に進めて行くことができるからである。
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