ネット選挙の中傷は無視するに限る?
2013/07/19   法務相談一般, 民法・商法, 刑事法, その他

事案の概要

ネット選挙解禁を受けて、選挙期間中の悪質な書き込みに素早く対応するため、法律上の特例が設けられた。候補者や政党から依頼があった場合、発信者の連絡先の表示がなければプロバイダーはすぐに削除できる。表示があっても、プロバイダーからの通知に回答がなければ2日後に削除可能だ。
(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任法」という)第3条の2第1号、2号)
今後、選挙戦が終盤に入り過熱すると、削除依頼の急増も想定される。

コメント

誹謗中傷に無闇に反論したり削除を求めたりすると、逆に炎上する可能性もある。
候補者にとっては選挙中波風を立てるよりも、誹謗中傷は無視する方が得策であろう。
ただ、選挙終盤もしくは選挙後に名誉毀損として削除の依頼が増える可能性がある。
名誉侵害にあたるのか、一律に線引きすることは難しい。
プロバイダーとしては、これまでの裁判令や「プロバイダ責任法第3条第2項」を考慮して慎重に判断する必要があるだろう。

関連法令

【憲法】
第21条
1項:「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」

【刑法】
第230条
1項:「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」

(公共の利害に関する場合の特例)
第230条ノ2
1項:「前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」  ※
※補足
「刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」(夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)

【民法】
第709条:「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」

第710条:「他人の・・・名誉を侵害した場合、・・・前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」

第723条:「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するに適当な処分を命ずることができる」

【特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称「プロバイダ責任法」)】

関連判例

【夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)】
「刑法230の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」

【月刊ペン事件(最高裁第一小法廷判決 昭和56年4月16日)】
「刑法230条ノ2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かは、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、これを摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべきことがらであつて、摘示された事実が「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断を左右するものではない。」

民事への刑法第230条の2の類推適用

人格権としての個人の名誉の保護と表現の自由(憲法21条)の調和を図った刑法230条ノ2の規定の趣旨は民事(名誉毀損)にもあてはまるので、刑法230条ノ2は民事にも類推適用される。

そして、民事の名誉毀損の裁判において、被告側は

①その行為が公共の利害に関する事実に係り
②もっぱら公益を図る目的に出たこと
③適時された事実が真実であることが証明されたこと ※

を主張立証する必要がある。

※補足
「刑法230条ノ2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」(夕刊和歌時事事件(最高裁大法廷判決 昭和44年6月25日)

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