雑誌記事を利用した販促手法が問題に ヤマダ電機がケーズデンキを提訴
2012/11/22 法務相談一般, 民法・商法, 流通

事案の概要
家電量販店大手のヤマダ電機(群馬県高崎市)が、消費者満足度ランキングに関する雑誌記事コピーの配布によって営業を妨害されたとして、「ケーズデンキ」を展開するケーズホールディングス(水戸市)を相手取り、5500万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こしたことがわかった。
問題となっている記事は、2010年7月に「日経ビジネス」に掲載された特集記事。アフターサービスの満足度に関するアンケート調査で、ケーズデンキが1位だったのに対し、ヤマダ電機は14社中の最下位とされた。
ヤマダ電機は、この販促手法に対して、「ヤマダ電機のサービスの質を著しく劣るものと誤認させるものとして違法」としている。
ケーズデンキは、同記事を店舗を訪れる客に対して、2010年8月から1年間配布していた。
コメント
1 この事案のような販促手法のメリット
今回ケーズデンキが行ったような販促手法は、自社以外が行ったマーケティング情報で自己に有利なものを利用することができる。そのため、会社はマーケティング費用を節約できるという利点がある。また、自社以外の第三者によるマーケティングであるため客観性があるので、消費者に対する「引き」も強いというメリットがある。
2 ヤマダ電機の主張
そもそもヤマダ電機が何を問題としているのかで違法の判断は違ってきそうだ。
すなわち、
①ケーズデンキを訪れた客に日経ビジネスの当該記事を配布したことにより現実的にヤマダ電機への客足を遠のけたこと、
②同記事は2010年7月以前の調査をした時点のものであるのに、その後1年間も記事を配布し続けることによってヤマダ電機のサービスが向上していないかのような印象を客に与え続けたこと
のいずれを根拠として違法の主張をしているのかはヤマダ電機の主張からは分かりにくい。
仮に、①である場合、日経ビジネスの記事も掲載業者の客足を遠のける効果があるため、同記事が違法であるとすると、それを利用したケーズデンキも違法性を認識した上で配布したとすれば、ケーズデンキの責任も問われそうだ。
しかし、おそらく、日経ビジネスの記事が違法である可能性は少なそうだ(※)。
一方、②である場合にはケーズデンキはただ単に記事を利用したというよりも、いたずらに長期に記事を配布して客の印象を操作したとされる可能性もある。これは新たにケーズデンキが記事とは別にヤマダデンキの評価を低下させる行為をしたものとして、違法の評価の対象となる。その際考慮されるのは、問題となるサービスの質が簡単には向上しないものかどうか、ケーズデンキ側の配布意図、配布時の客への対応、売上減少の程度などが推測される。
3 法務担当者の視点
そうすると、類似の販促手法を会社が使う場合には法務担当者は②の事態を想定して事前チェックなりする必要がありそうだ。
しかし、販促手法一般についていえばそれは簡単でない。
つまり、現場での営業手法は客のニーズや店舗の状況によって千差万別であり、店舗側が法務担当者からのチェックが必要であるという感覚をもつことが難しいからである。これは契約書の審査などとは違うと言える。一方で、法務担当者が各店舗を見回ってチェックするというのも、多忙な法務担当者からしては難しいと思われる。
結局は、違法と思われる販促手法をストックして、機会ごとに各店舗に研修していくしかなさそうだ。
もっとも、雑誌記事を使ってする販促手法に関しては、上述したようにメリットが大きい分、法的リスクが大きいとも言えるので、これを機会に雑誌記事などメディアを使った販促手法は事前チェックを経るなどの体制をつくっておくことは有用と考えられる。
※ メディアが名誉棄損(民法709条、刑法230条)となるためには違法性が阻却されないことが必要となる(刑法230条)。すなわち、(ⅰ)公共の利害に関する事実でないこと、(ⅱ)目的が専ら公益を図ることにあったと認められないこと、(ⅲ)真実であることの証明があったときでないことの要件のいずれかが欠けることが必要となる。
本事案では、(ⅰ)(ⅱ)本件日経ビジネスの記事は消費者の利益に関する事項であり、消費者の利益を考えての雑誌掲載であると考えられる。また、日経ビジネスの独自調査に基づくものであり、推測によるものでないと考えられる。とすると、3つの要件を満たすことになり、違法性が阻却されると思われる。
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