立場の弱い労働者は、企業に対し、どう対策すべきか
2012/06/20 労務法務, 労働法全般, その他

事案の概要
厚生労働省が6月14日に発表した「平成23年度 脳・心臓疾患および精神障害などの労災補償状況まとめ」によると、精神障害による労災請求件数が3年連続で過去最高の1272件となった。
それぞれのデータを世代別に見ると40〜50代の数字が目立つのだが、ワークルールや就労に関する法令知識に明るくない若者たちの労働問題の深刻さが増している。
この手の労働問題では、①入社時に雇用ルールを明示していないことによるトラブル,②会社側が退職手続きをしてくれない、退職を認めてくれないといったケース(採用にかかった費用などを損害賠償請求する等)、③会社側から解雇や退職勧告する場合に、雇用助成金制度を利用している会社の場合、解雇者を出すと助成金が打ち切られるため、退職理由を会社都合とせずに、自己都合退職を強いるケース、④非正規雇用が増え、雇用形態の違いによるパワハラや待遇の不公平感が問題になる等が多いという。
長時間のサービス残業が続き、その状況が「おかしい」と思っても、雇用環境が悪化している今の状況では「ようやく就職できたのだから、辞めたら次が無い」と、会社側に改善してほしいと言えず、そうした労働者の弱い立場につけこむ状況は少なくないようだ。
これら労働問題について、②労働者には契約解除の権利があり、2週間前に告知すれば退職の自由がある。また横領や背任といった、故意によって会社に損害を負わせたケースを除いて、会社が労働者に損害賠償を請求することはできない。他に、業務中の事故や備品の破損などを賠償させるケースがあるが、誓約書などで契約をしていたとしても、その契約自体が違法であり、労働者側に著しい過失があった場合でも全額を支払う義務はない。
③よくあるのは『経歴に傷がつくから、自己退職の方がいい』と説得されることがあるようだが、会社都合であれば失業手当がすぐ支給され、国民健康保険料などでの優遇措置もあある。しかし、自己都合では失業手当の給付開始が3か月後になったり、給付期間が短くなるなど、労働者にとって不利益になることもあるため熟慮が必要となるだろう。
又、④用形態が異なっても、基本的な権利などは法律上同じ。パートやアルバイトであっても、残業代や有給休暇といった権利は、正社員同様に認められている。景気や経営不振から『残業代が払えないと言われた』という話もあるようだが、会社が一方的に契約内容や待遇などを不利益変更することはできない。
こうした労働者の権利を考慮しない「ブラック企業」を見分けるには、勤務時間や手当などを明記した雇用条件を書面で提示する、就業規則を明示するなどルールを明確にしてくれるかが、一定の目安になるようだ。
しかし、そうした契約自体に労働者にとって不利な条件が記載されていて、知らずに契約してしまった場合に対応策はあるのか?
就業規則や個別の雇用契約は契約として有効だが、労働時間や最低賃金など労働基準法に違反する内容については、すべて無効である。誤解が多いのは、フレックスタイムや裁量労働制、年俸制であっても、規定時間を超えた残業に関しては割増賃金が発生するということだ。
勤務時間を管理せずに大量の業務を課して、『業務が終わらないのは処理能力の不足』として残業代を認めない場合でも、業務量から『黙示の指示があった』と労働者は主張できる。会社側には『安全配慮義務』があり、労働者がうつや病気になるような過酷な働き方をさせてはいけないということである。
このことを踏まえて、対応策としては、長時間労働や残業代の不払いがある場合、出退勤を記録しておくことが大事だ。タイムカードの打刻時間を定時内に強要される場合、業務のためにPCを起動・終了時に自分のアドレスに業務の「開始」「終了」をメールしたり、手帳に記録しておく。求人の時の募集要項・雇用契約書などの書面を保存するといった工夫をしておくと、実態と契約の間に隔たりがあったことがわかりやすい。残業代不払いの証明には、給与明細を保管しておくと、交渉の際の材料になるだろう。
コメント
労働者の弱い立場に付け込むブラック企業が後をたたない。自らの正当な権利を確保するため、労働者自身も、労働者の権利としての正しい知識を身に付ける必要があるだろう。
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