最低賃金に関するコンプライアンス対応まとめ
2023/01/31 労務法務, 労働法全般

はじめに
企業が従業員に最低限支払う「最低賃金」は、去年、全国平均31円引き上げられ、その上げ幅は過去最大となりました。そうした背景から、厚生労働省は全国の企業およそ1万5000社を対象に賃金の支払いが適切に行われているかなどを調査しています。また、大幅引き上げによる企業側の負担増加についての相談も並行して行っているということです。
最低賃金
最低賃金は毎年見直しされていて、引き上げ額は地方ごとに検討されています。給与の地域差が大きくなると、最低賃金の低いところから高い都市部へ人口が流出する懸念があるため、少しずつ微調整しているということです。
2022年は最大で33円引きあげられ、全国平均で31円引き上げられ、過去最高の上げ幅となりました。また、最低賃金の全国平均は、時給表示に変わった2002年度から比べると、19年間で267円引き上げられています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構 最低賃金
対象となるのは以下の従業員です。
・正社員
・パートタイマー
・アルバイト
・臨時、嘱託職員
最低賃金は「最低賃金法」で定められ、対象は「基本給」と「諸手当」です。通勤手当やボーナスなどの手当などは含まれません。また地域別最低賃金・特定最低賃金の2種類があります。
最低賃金額を下回った額を支払うことは法律で違法とされます。仮に最低賃金額よりも低い賃金を、労働者・使用者双方の合意の上で定めた場合にも適用されます。最低賃金を下回る賃金を企業が支払った場合、最低賃金額と比較した際の差額を支払う必要があります。
ただ最低賃金の例外・減給特例制度というものがあり例外的に認められることがあります。
都道府県労働局長の許可を得る場合に限られますが、試用期間中の従業員や、基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている者のうち厚生労働省令で定める者、断続的労働に従事する者などとされています。
罰則は?
では、仮に最低賃金を下回った給与を支払っていた場合、どういったことが起こるのでしょうか?
・最低賃金額との差額を支払う
・地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合、50万円以下の罰金(最低賃金法)
・特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合、30万円以下の罰金(労働基準法)
最低賃金を下回った給与の支払いがされたとして訴訟になるケースもあります。
■タクシー会社に未払い分の支払命令
タクシー会社の運転手27人が未払いの残業代などの支払いを求めた訴訟で、会社側はおよそ1億500万円の支払いを命じられています。
このタクシー会社の賃金は、基本給と歩合給の「基準外手当」などで構成されていて、歩合給の部分が最低賃金に含まれるのか、また、長時間の客待ちや移動の時間も労働時間に含まれるかが焦点となっていました。
判決で裁判長は、雇用契約書などの書面上、「基準外手当を時間外労働の対価とする記載はない」と指摘。歩合給は所定勤務時間内の賃金に当たり、残業代は別途支払う必要があると判断されたものです。さらに客待ちなどの時間も労働時間に含まれると述べられました。
■貸しおしぼり業者を書類送検
平成21年5月21日〜9月30日までに10名の労働者、平成21年10月1日〜11月20日までの間で8名の労働者に対して最低賃金を支払わなかったということです。
この企業のあるエリアの労働基準監督署は不足賃金の支払いをするように行政指導を行っていましたが、企業が応じなかったため、書類送検しています。
当時の最低賃金は時給766円でしたが、この企業が支払っていた賃金は、最も低い額で時給600円だったということです。最低賃金不足額は、総額で約79万円でした。
最低賃金に係るコンプライアンス対応
1.最低賃金の周知義務
最低賃金法第8条では、使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲・最低賃金額・参入しない賃金及び効力発生日を、常時作業場の見えやすい場所に掲示する等して周知しなければならないとされています。そのため、まず、会社としては最低賃金に関する情報を周知することが求められます。
2.最低賃金以上の支払いを行っていることの確認
最低賃金の対象(以下、「対象賃金」)となるのは、以下になります。
「毎月支払われる賃金」-「冠婚葬祭等で臨時に支払われる手当+時間外割増賃金+休日割増賃金+深夜割増賃金+精皆勤・通勤・家族手当+賞与」 |
(1)時間給の場合
「支給している時間給」が最低賃金以上となっているかかを確認します。
(2)日給の場合
「日給÷1日の所定労働時間」が最低賃金額以上となっているかを確認します。
(3)月給の場合
「月給÷1ヶ月の平均所定労働時間」が最低賃金額以上となっているかを確認します。
コメント
折からの物価高に加え、最低賃金の上昇に経営を圧迫される企業も少なくありません。しかし、最低賃金に関する各種定めは強行法規となるため、遵守する以外の選択肢はありません。体力のない取引先の中には、倒産に至る企業も出て来るかもしれません。
また、扶養控除が受けられる範囲で働く従業員に関しては、給与が範囲内に収まるよう労働時間を調整していると思いますが、最低賃金の引き上げで時給が上がることで、労働時間を減らす必要が生じます。場合によっては、業務の割り振りの見直しも必要になるでしょう。
国民の生活を下支えするうえで、メリットのある最低賃金の上昇ですが、企業側としては少なくない影響を受けます。常に最低賃金法等の動向にアンテナを張ることが重要です。
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