ゼロから始める企業法務(第21回/契約書業務時の事業部担当者との認識相違問題)
2021/11/22 契約法務
皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は契約書業務を行う中で、法務担当者と事業部担当者との間で生じる認識の相違問題とその対応策について記事にしたいと思います。
認識の相違問題は、法務にとって永遠の課題
契約書業務を行うなかで、法務担当者は、事業部担当者との間で、悩ましいやり取りに直面します。その多くは、法務担当者と事業部担当者の認識の相違によるものです。事業部担当者には、一定数の「契約書は、法務に依頼すればすぐに出してもらえる」と思い込んでいる方がいます。一方で、第2回で記載した通り、契約書業務は「事業部や経理等の関係各所と法務との共同作業」であり、法務だけで完結できる仕事ではないのです。それにも関わらず、多くの会社で日常的に、当該認識の相違による問題は発生しています。この問題への対応策は、法務にとっていわば永遠の課題です。なぜならば、当該問題が起こる頻度や問題の程度は、会社やビジネスによって千差万別であり、その対応策に正解がないからです。今回は、日常的に発生する法務と事業部間の認識の相違問題の中から3つのケースについて、私なりに考え、実践している対応策を紹介いたします。
ケース1.「何も決まってない」問題
(1)ケーススタディー
事業部担当者:A社と●●事業について業務提携をすることになったので、業務提携契約書の作成をお願いします。
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事業部としては、「A社と業提携契約を締結した」ことが実績となるし、対外的にもPRができるので、内容云々よりも、まずは業務提携契約を締結することが大事な場合もあります。一方で、法務担当者としては、中身のない契約書を作成することに、抵抗を感じます。そこに、認識の相違が生じています。
(3)対応策:「基本合意書」を作成する
法務としては、この様な契約書を作成するのはあまり意味がないことを説明したうえで、「提携の概要」「秘密保持義務」「独占交渉権」「業務提携時期」を定めた「基本合意書」を作成すると良いでしょう。「独占交渉権」を定めるだけでも、今後の業務提携に関する交渉相手を当社のみに縛る効果があります。また、「業務提携時期」を定めておけば、「基本合意書」締結後、相手方の動きが鈍い際に、当該規定に基づき相手方に催促をすることが可能になります。「基本合意書」には、末尾に「提携内容の詳細については、今後締結する「業務提携契約書」において定める。」と記載しておくと、将来の「業務提携契約書」の締結を担保できて良いでしょう。
ケース2.「丸投げ」問題
(1)ケーススタディー
事業部担当者:B社から●●業務を受託したので、業務委託契約書の作成をお願いします。
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まさに、契約書は事業部の協力が無いと作成できないことを、事業部担当者が理解されていない例です。事例は極端な内容にしましたが、程度の差こそあれ、似た様な問題は、法務と事業部との間で日々生じているかと思います。
(3)対応策①:「ヒアリングシート」の提出を義務付ける
この様な「丸投げ」問題の対応策としては、事業部から法務に対する「ヒアリングシート」の提出を義務付けることが有効です。「ヒアリングシート」には、「契約の背景・目的」「関連するビジネスの概要」「プレゼン資料やスキーム図等の参考資料」「契約条件の骨子」「経済条件」「懸念する事項」等の入力欄を定め、法務への依頼の際は全て埋める様にルール化します。契約書業務に関するワークフロー(WF)を構築していれば、当該ヒアリング事項を埋めないと、WFが進まない様にします。こうすることで、丸投げ問題はある程度解消するかと思います。
(4)対応策②:最大限に当社側に有利な契約書を用意する
例えば、当社が業務を受託する契約を作成する際に、請負に見えてもあえて準委任にする、知財は全て当社に帰属する、当社側の免責を設ける、契約は中途解約不可とする、報酬は前払いにする、相手方の損害賠償額には合理的な弁護士費用も含める、相手方に対する違約金を設ける、当社の損害賠償額に上限を設ける、等、最大限に当社側に有利な契約書を用意します。そのまま締結できればそれでも良いし、当該契約書を相手方が修正することで、相手方の担当者と当社の事業部担当者との間でコミュケーションが生じ、最終的には適切な契約内容になることが期待できます。
ケース3.「契約書を読まない」問題
(1)ケーススタディー
事業部担当者:C社から当社ひな型の修正案が届きましたので、確認をお願いします。
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(2)問題の所在
事業部担当者の中には、契約書を良く読まない方が、一定数います。理由は、小難しい契約書の条文を読むのが「面倒」だからです。契約書の条文を分かりやすく解説することに法務の価値が出ますが、一方で、事業部側も契約書の条文を読むことで、事業部と法務が共通の認識を持ち、コミュニケーションコストを減らすことができます。事業部側でもしっかり契約書の条文を読んでいただきたいものです。
(3)対応策:上司への確認を義務付ける
この様な場合は、「まずは上司の方に受け入れ可能か確認してください。」と伝えるといいでしょう。事業部担当者も、上司に修正内容を伝える必要があるので、契約書をしっかり読むようになります。また、上司からは「あなたはどう思う?」と質問を受けるかと思いますので、自分でも受け入れ可/不可のロジックを考える様になります。契約書業務に関するWFを構築していれば、上司の確認が無いとWFが進まない様にします。こうすることで、事業部担当者が契約書を読まない問題は、ある程度解消すると思います。
「気軽に相談・依頼できる法務」である必要性
ケース2と3では、「ヒアリングシートを義務付ける」「上司への確認を義務付ける」ルールを設ける対応策を紹介しましたが、注意しなければならないのは、これらのルールを強く進めてしまうと、事業部が身構えてしまい、気軽に法務に相談・依頼できる雰囲気が無くなってしまうことです。事業部が「気軽に法務に相談・依頼できない」と思う様になると、案件によっては法務への相談・依頼をしないまま進めてしまい、問題が顕在化した時には手遅れになることがあります。ですので、法務への相談・依頼の際のルールを定めたうえで、そのルールを外れた相談・依頼があった場合でも、柔軟に対応する必要があります。「ルールを定める」ことと「柔軟に対応する」ことは相反しますが、法務がバランス感覚を持って適切な対応ができれば、事業部との信頼関係を維持したまま、適切な役割分担がなされた契約書業務の体制を構築することができると思います。
いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。
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