ゼロから始める企業法務(第16回)/法務実務書の活用方法
2021/11/16   契約法務

皆様、こんにちは!堀切です。

これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務業務を行う際に重要な、実務書の活用方法について記事にしたいと思います。

 

法務にとって実務書は商売道具


シェフにとっての調理器具、メカニックにとっての工具同様、法務にとって実務書は商売道具です。理由は明確で、法務として提供するアウトプットには、法的または実務的な根拠を求められるからです。

法務相談では、ビジネスサイドからの質問に対する法務の回答として「私は●●と思います。」等の主観的または曖昧なものは求められておらず、この様なことを続けていくと、最悪の場合は、ビジネスを違法な状態にミスリードすることにつながります。法務として求められる回答は、「結論は●●です。理由は、●●(法令、監督官庁が提供するガイドラインや手引き等)に●●と記載されているからです。」という、法的または実務的な根拠を基にした客観的なものになります。

 

一方で実務では、法令やガイドライン等では明確な回答が出ない問題が度々発生します。

この様な場合に根拠として有用なのが、実務書の解説です。また、実務書は法令やガイドライン等を基に、その中でも重要な論点にフォーカスしている場合が多いので、法令やガイドライン等の量が膨大すぎて調べるのに手間が掛かる場合に、実務書を活用すれば、重要な論点に早くたどり着くことができ、工数の削減につながります。さらに、実務書で重要論点を洗い出した後に、根拠となる法令やガイドライン等の該当箇所を参照することで、法務担当者の理解も深まります。

この様に、法務として必要なアウトプットを提供し、自らのスキルやナレッジを高めていくためにも、実務書の活用は必要不可欠となります。

 

実務書を選ぶ際のポイント


私が実務書を選ぶ際のポイントは、以下のとおりです。

①分厚くないこと

「●●民法」、「●●会社法」等、いわゆる分厚い基本書を読み、理解することはもちろん重要ですが、日々の膨大な実務をこなす中で、基本書から調べたい論点を探し出すのは、手間が掛かります。また、実務において重要なのは「どうすれば法的な論点をクリアできるか」なので、基本書によく記載されている「●●説」といった学説も、あまり利用されません。一方で内容が重要論点に絞られている書籍は、実務での使い勝手が良く、重宝します。そうすると、結果的に、選ぶ書籍は「分厚くない」ものになります。

 

②索引事項が豊富なこと

実務書を利用する際に、調べたい論点に関する総論から順に読んでいくのは手間なので、索引を利用します。例えば、取締役の利益相反取引や特別利害関係人について調べる際に、検索事項のなかに「利益相反」や「特別利害関係人」のキーワードがあれば、ピンポイントで、調べたい論点にたどり着けます。法務業務の効率化の観点からも、索引事項が豊富であることはとても大事です。

 

③例文や書式、ひな型が豊富かつ品質が良いこと

例えば契約書の条文や議事録の記載事項等、アウトプットが必要な業務については、論点を調べ、理解しても、提供する文章や書式が適切でなければ、意味がありません。その点、実務書に例文や書式、ひな型が掲載されていれば、実態に合わせて加工のうえ利用することで、作文する工数を削減できると共に、一定の品質を担保することができます。そのためには、豊富であることはもちろん、質の良い例文や書式、ひな型が掲載されている実務書を選ぶことが重要になります。

 

おすすめの実務書


ここで、私も実務で利用している、おすすめの実務書を紹介いたします。

会社法

非公開会社のための やさしい会社法(株式会社商事法務 刊 髙田剛 鄭一志 北口健 著)』

会社法実務においては、上場会社と非上場会社で必要な論点は大きく異なり、例えば指名委員会等設置会社の制度や金商法、上場規定等、基本的に上場会社に関係する制度や法令の多くは、非上場会社にとって関係のないものになります。こちらの書籍は、論点を非上場会社の実務に絞っている点がユニークかつ、実用的なものとなっています。

 

新・取締役会ガイドライン(株式会社商事法務 刊 東京弁護士会会社法務部 編)』

取締役会実務について、Q&A方式で網羅的に解説がなされています。頻出論点だけでなく、例えば、「取締役の重要な業務執行として決議事項となる場合」の論点や「取締役会に取締役、監査役以外の者が出席する場合」の論点等、実務担当者が聞かれがちな論点についての解説もあり、「痒い」所にも手が届く内容になっています。

 

契約

ITビジネスの契約実務(株式会社商事法務 刊 伊藤雅浩 久礼美紀子 高瀬亜富 著)』

コンパクトな内容でありながら、ITに関する契約の類型、事例、文例について必要十分の解説がなされており、実務にマッチした一冊です。クラウドサービス利用契約や、データ提供契約等、実務のニーズが高い契約の条項例が記載されているのも魅力です。

 

秘密保持契約の実務(株式会社中央経済社 刊 森本大介 石川智也 濱野敏彦 編著)』

契約書の基本でありながら、論点が見えにくい秘密保持契約について網羅的に解説した一冊です。巻末には、和文英文双方の条文サンプルや、「及び」「並びに」等、形式面のチェックポイントについても記載があります。

 

英文契約書の基本表現(日本加除出版株式会社 刊 牧野和夫 著)』

英文契約書の起案・審査を行う際に一番困るのは、加筆修正したくても文例が見つからないときです。本書には、英文契約書の基本表現が豊富に記載されているので、実務で頻繁に参照しております。

 

個人情報保護法

個人情報保護法のしくみ(株式会社商事法務 刊 日置巴美 板倉陽一郎 著)』

個人情報保護法の実務では、膨大なガイドラインを読み解くのに非常に手間がかかるのがネックですが、本書では元個人情報保護委員会事務局参事補佐官であった著者による重要論点に絞った解説がなされておりますので、論点を探す手間を節約できる他、個人情報保護法の全体像を理解することもできます。

 

景品表示法、資金決済法等のアプリ法務

アプリ法務ハンドブック(レクシスネクシス・ジャパン株式会社 刊 小野斉大 鎌田真理雄 東條岳 橋詰卓司 平林健吾 著)』

景表法や資金決済法等、アプリビジネスを展開する際に押さえる必要がある法律の論点について、事例も含め分かり易く解説されています。特筆すべきは、Apple、Googleのデベロッパー規約についての解説がなされている点です。この規約に違反するとアプリが審査に通らなくなってしまうので、実務でとても重宝しています。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。

 

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成


私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ上場ITベンチャー、東証一部上場インターネット広告会社、スマホゲーム開発会社、Mobilityベンチャーでの法務、経営企画等に従事後、現在はライブ動画配信プラットフォーム提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。


 

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