ゼロから始める企業法務(第7回)/取締役会対応
2021/11/07   商事法務

皆様、こんにちは!堀切です。

これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は取締役会についてお話いたします。

 

取締役会は会社の重要会議体


法務を採用する会社であれば、その多くは取締役会設置会社かと思います。取締役会設置会社では、重要な業務執行は全て取締役会の決議を得る必要があります(会社法第362条第4項)。取締役会で適法・適切な決議を取れなかった場合、取締役は業務執行をすることができず、ひいては重要なビジネスが遅滞する可能性すらあります。ですので取締役会事務局は、会社の経営の根幹に関わる重要な業務を担当することになります。

 

取締役会は「経営」の現場そのもの


取締役会を構成するのは役員(取締役と監査役)であり、言うまでもなく会社の経営を担う方々です。加えて、外部からの資本が入っている会社では、大株主のファンドや事業会社から、経営企画部長等がオブザーバーとして陪席する場合があります。さらに上場会社では、弁護士、公認会計士や有名企業の経営者、会社によっては大学教授やスポーツ界で実績を残した著名人等、様々なバックグラウンドを持つ専門家が社外役員として出席します。オブザーバーや社外役員からは、それぞれの知見に基づいた意見が出され、業務執行取締役との間で、経営に関する議論が展開されていきます。ときに業務執行取締役と社外役員の意見が分かれた場合や、大株主から派遣された役員やオブザーバ―から子会社の業務執行を牽制する様な意見が出された場合は、生々しいやり取りが発生することもあります。事件は会議室で(も)起きているのです。事務局担当者にとって、取締役会は生の経営を学ぶことができる場でもありますので、ぜひ積極的に業務に取り組んでいただければと思います。

 

法務が取締役会事務局を担当するメリット


総務や経営企画が担当する会社もあると思いますが、法務が取締役会事務局を担当することには、他には無いメリットがあります。第3回で述べたとおり、法務が日々契約書を起案・審査するなかで、依頼を受けた案件が「重要な業務執行」にあたることに気づく機会があるからです。これは、管理部門でありながら、業務上ビジネスサイドと連携することが多い法務に特有のことかと思います。法務がいち早く取締役会決議事項に気づき、担当役員に報告すると共に、契約書業務と並行して、担当者に取締役会資料の作成を依頼し、内容をチェックしたうえで取締役会に上程することにより、一気通貫のスムーズな社内決裁を実現し、迅速なビジネスの実行に資することができるのです。法務が取締役会事務局を兼務することは、会社にとっても、法務の存在価値を上げる意味でも、メリットがあると思います。

 

取締役会の極意もスケジューリング


株主総会同様、取締役会についても重要なのはスケジューリングです。法的には、取締役会は3か月に1度開催する必要があります(会社法第363条第2項)が、多くの会社では、1か月に1度は定例(定時)取締役会を開催し、その中で取締役が月次実績報告をはじめとする職務執行の状況を報告し、重要な業務執行については決議を取っているかと思います。会社のビジネスをスムーズに遂行するためにも、事前にスケジュールを策定し、それを関係者に周知、調整したうえで、確実に実行することが重要です。具体的には、次の3つのスケジュールを策定、実行していきます。

 

●年間スケジュール


役員は非常に多忙なため、遅くとも新事業年度が開始する3か月前には、取締役会の年間スケジュールを策定します。策定にあたっては、まずは財務経理に月次実績報告資料の提出タイミング(例:毎月第3月曜 等)を確認した後に、年間カレンダーから定期的な取締役会開催日(例:毎月第3木曜 等)をピックアップします。月次実績報告資料が取締役会に間に合わなくなることを防ぐためには、資料提出から取締役会開催日まで、ある程度の余裕を持った方が良いでしょう。次にピックアップした年間取締役会日程を、経営企画、IR、総務の責任者や役員(社外役員を含む)秘書と共有し、個別のスケジュールを調整した確定版を策定します。この時点で、会議室も1年分の予約を押さえ、社内の出席者には会議依頼を送付しておくと良いでしょう。また、予算や決算の承認、子会社への資金貸付の年次更新等、年間で必ず決議を行う事項については、予めスケジュールに盛り込んでおくと、後々の決議漏れを防ぐことができます。

 

●議案募集スケジュール


決議事項(議案)の取りこぼしが無い様、募集スケジュールを定め、実行します。具体的には、取締役と事業部や財務経理、経営企画、IR、人事総務の責任者を対象に、取締役会開催日の2週間前に、メール等で議案の募集をします。その際には、何が取締役会決議事項に当たるかを説明すると共に、会社の「職務権限表」や「決裁金額基準表」を提示すると良いでしょう。議案提出の期限は、取締役会招集通知発送日の15時あたりに設定します。提出期限経過後、提出を受けた議案に定例の報告事項を加えた取締役会招集通知を、取締役、監査役(cc役員秘書や陪席者等)宛にメールで発送します。なお、招集通知発送後に議案の提出があった場合は、取締役会当日に議案を追加する等、柔軟に対応します。ちなみに、招集通知発送日は取締役会開催日から中1日を足す(例えば定款で「会日の3日前に発送」と記載がある場合の、実際の発送日は中1日を足した4日前)必要があるので、ご注意ください。

 

●資料提出スケジュール


議案の資料や、セールスや開発等、事業部からの月次報告資料についても、提出スケジュールを定め、実行します。具体的には、議案の提案部署の資料策担当者や月次資料作成担当者を対象に、取締役会開催日の1週間前に、資料提出の依頼をします。資料が散逸することを避けるために、資料取りまとめ用のフォルダやドライブを作成、提示すると良いでしょう。議案提出の期限は、取締役会開催日の前日の15時あたりに設定します。資料の提出が遅れがちな部署には、適宜リマインドをし、期限内の資料提出を促します。取りまとめた資料は、ページ番号が振られているか確認した後、報告事項、決議事項の順番に合わせて「資料1」「資料2」等のヘッダを付けていきます。また、資料が複数に渡る場合は、ヘッダを「資料1-1」「資料1-2」等に分け、取締役会の場で参照する資料が分かり易くなる様、整理します。

整理した資料は、取締役会開催の1日前までにメールで出席者に送付すると共に、印刷し、取締役会当日の席上でも配布します。

 

いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は各論として、取締役会業務で担当者が対応に悩む事項とその対応方法について、記事にできればと思います。

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 

 

【筆者プロフィール】
堀切一成


私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
通信機器・材料の専門商社で営業に 7 年間従事した後、渉外司法書士事務所勤務を経て法務パーソンに転身。
JASDAQ 上場 IT ベンチャーでの法務マネジャー、東証一部上場インターネット広告会社での法務マネジャー・経営企画、スマホゲーム開発会社での法務マネジャーに従事した後、現在は MaaS サービス提供ベンチャー初の法務専任者として日々起こる法務マターに取り組んでいます。


 

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