Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(5) - LOI、MOU等
2021/10/15   契約法務, 海外法務

この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第5回では、LOI、MOU等の正式契約前に取り交わされることがある書面について解説します。

 

Q1:「LOI」、「MOU」とは何ですか?


A1:「LOI」も「MOU」も、契約交渉の当事者間で交渉事項に関する共通理解を確認するため正式契約を締結する前に取り交わされることがある書面です。

「LOI」は"Letter of Intent"の、「MOU」は"Memorandum of Understanding"の略語です。他に"Term Sheet"等の名称が付されることもあります。日本語では一般的に「意向書」、「予備的合意書」等と訳されます。

 

Q2:「LOI」、「MOU」等を取り交わす目的は何ですか?


A2: 一般的には以下のような目的があると言われます。

①契約交渉を開始するに当たり交渉事項に関し当事者間で共通の理解を確認するため

②契約交渉後に暫定的に合意された事項を確認するため

③契約交渉の担当者間では契約内容が合意されているが、取締役会の承認等がなされていない場合に、担当者間の合意内容を確認するため

④交渉対象となっているプロジェクトの資金調達等の準備を目的とし金融機関等の関係者に提出するため

⑤提携交渉等の対外公表(例:上場会社の適時開示[1])を前提としそれまでの合意内容を確認するため

⑥企業買収等の交渉に関し、一定期間、独占交渉権を確保するため

 

Q3:「LOI」、「MOU」等に法的拘束力はありますか?


A3: 上記のような目的から、一般的には交渉対象の取引条件自体には法的拘束力を持たせないことが意図されています。しかし、実際には、書面の標題等に係らず、記載されている内容により法的拘束力の有無が判断されます。また、秘密保持条項等、法的拘束力を持たせる必要がある条項もあります。

 

Q4:「LOI」と「MOU」の違いは何ですか?


A4: 一般的には、一方当事者から相手方に宛てたletter(手紙)に対し相手方が署名して返送する形式のものを「LOI」と呼び、通常の契約書のように最初から双方がサインする形式のものを「MOU」と呼んでいます。

 

Q5: 「LOI」、「MOU」等の形式・内容はどのようなもの何ですか?


A5: 以下に「LOI」のサンプルを示します。

 

【LOIの形式・内容例】

[LOIを作成・送付する会社(XYZ)のレターヘッド]


Mr. XXXX


[役職名]


ABC Co., Ltd. [相手方会社名]


[住所]


Re: [件名]


Dear Mr. XXXX:


拝啓、XXXX 様


This letter of intent (this “LOI”) will confirm the intent of [相手方会社名] (“ABC”) and [自社名] (“XYZ”) in relation to [XX] (the "Project").


この意向書(「本LOI」)は、[XX](「本プロジェクト」) [交渉対象の取引概要(例:提携、企業買収、ライセンス等)を簡潔に記載] に関するABCおよびXYZ間の意向を確認するためのものです。


ABC and XYZ are hereinafter referred to as the “Parties” collectively and as the “Party” respectively.


以下、ABCおよびXYZを総称して「両当事者」と、それぞれを「当事者」といいます。


Article 1. The result of the discussions (交渉結果)


The Parties have discussed the contract terms and conditions of the Project. As a result of the discussions, the Parties have tentatively agreed as follows:


両当事者は、これまで本プロジェクトの契約条件を協議してきた。その結果として両当事者は暫定的に以下の通り合意している。


[これまでに暫定合意した内容を列記]


Article X. Definitive Agreement (正式契約)


The Parties agree to continue to negotiate in good faith the terms and conditions of a legally binding definitive agreement for the Project (the “Definitive Agreement”) and, if necessary, related agreements.


両当事者は、本プロジェクトに関する法的拘束力ある正式契約(「正式契約」)および必要があればその関連契約の条件を継続して誠実に協議するものとする。


The Parties intend to execute the Definitive Agreement by [XX] (the “Negotiation End Date”).


両当事者は、正式契約を[XX](「交渉期限」)[年月日を記入]までに締結する意図を有している。


Article X. Costs and Expenses (費用負担)


契約交渉上発生する費用は各自負担。


Article X. Public Announcement (公表)


交渉の存在・内容等の公表は両者が合意しない限り禁止。但し、法令上公表が必要な場合(例:上場会社の適時開示義務)を除く。


Article X. Confidentiality (秘密保持)


交渉上取り交わされる情報について、別途締結された秘密保持契約(NDA)に従い秘密保持することを規定。または新たに規定。


Article X. Exclusive Negotiation (独占交渉)


[場合により規定] 本LOI取交わし後交渉期限まで本プロジェクトに類似する取引を第三者と交渉することの禁止(但し、企業買収の交渉で取締役の善管注意義務との関係で第三者からの買収提案を検討する義務がある場合等を除く)。


Article X. Non-Binding Effect (非拘束性)


The Parties agree that this LOI is not intended to create any binding legal rights or obligations of any nature whatsoever with respect to the Project, except as provided in Articles XX, XX ......


各当事者は、本LOIにより本プロジェクトに関し如何なる法的権利または義務も生じないことに合意する。但し、第XX条、第XX条... に定める権利・義務[Q&A6で解説]を除く。


Article X. Termination (本LOIの失効)


In the event that the Definitive Agreement is not executed between the Parties by the Negotiation End Date, this LOI shall terminate automatically, and neither Party shall have any further obligation hereunder, except as provided in Articles XX, XX,...., which shall survive termination of this LOI.


正式契約が交渉期限までに締結されない場合、本LOIは自動的に失効するものとし、いずれの当事者も以後本LOI上の義務を負わない。但し、第XX条、第XX条... に定める義務[Q&A6で解説]は本LOI失効後も有効に存続するものとする。


Article X. Governing Law and Dispute Resolution (準拠法および紛争解決)


本LOI自体の準拠法と紛争解決(仲裁・裁判等)を規定。他に契約譲渡の禁止等の一般条項等も必要に応じ規定。


If you agree to this LOI, please sign this LOI and return a signed copy thereof to me.


本LOIに同意いただける場合、本LOIに署名の上、その署名済み一部を私宛てにご返送下さい。


Sincerely Yours,


敬具


[以下自社(XYZ)名・責任者役職名・氏名・署名]


By the signature below, ABC agrees to this LOI:


以下の署名によりABCは本LOIに合意する。


[以下相手方社名・責任者役職名・氏名・署名欄]


 

Q6: 「LOI」、「MOU」等の作成上特に注意すべき点は何ですか?


A6: 法的拘束性がない条項と法的拘束性がある条項を区分して明確化することです。

「LOI」も「MOU」も、契約交渉中の暫定的合意(従って正式合意に至っていない)に関する書面であるという性格から、法的拘束性がない部分を明確にすることが必要です。

これに該当するのは主に交渉中の取引の契約条件です(上記サンプルではArticle 1 に列記される事項)。これを明確にしないと、最終的に正式契約が締結されなかった場合、法的拘束力のある合意が成立していたのか否か等を巡り紛争が生じることがあります。

 

一方、LOIに規定されている事項であっても法的拘束性を持たせる必要がある事項もあります。これに該当するのは、上記サンプルでは、費用負担、公表、秘密保持、独占交渉、非拘束性、本LOIの失効、準拠法および紛争解決等です。また、これら、法的拘束性がある条項の内、公表、秘密保持、非拘束性、準拠法および紛争解決等は、本LOI失効後も有効に存続させなければなりません。

 

Q7: その他「LOI」、「MOU」等に関し特に注意すべき点は何ですか?


A7: 自社が上場企業で交渉事項が企業買収・業務提携等の場合、インサイダー取引規制[2]、適時開示等に関し違反が発生しないよう情報の秘密保持または公表に関する特別な注意が必要です。また、サンプル中に記載した独占交渉に関する取締役の善管注意義務にも注意が必要です。

 

「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」第5回はここまでです。次回は、契約の一形態である「規約」に関し、Amazon等のクラウドサービスの規約を取り上げて解説します

[1] 【上場会社の適時開示義務】 「会社情報の適時開示制度」 日本取引所グループ https://www.jpx.co.jp/equities/listing/disclosure/index.html

[2] 【インサイダー取引規制】 「インサイダー取引規制について」楽天証券 https://www.rakuten-sec.co.jp/web/company/attention/insider.html

 

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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

(*) この「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】
浅井 敏雄 (あさい としお)
企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表


1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで複数の日本企業および外資系企業で法務・知的財産部門の責任者またはスタッフとして企業法務に従事。1998年弁理士試験合格。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員。


【発表論文・書籍一覧】
https://www.theunilaw2.com/


 

 

 

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