健康診断まとめ
2018/09/10 労務法務, 労働法全般

1.はじめに
会社の健康診断というと、初夏や秋口に行っている企業が多いと思います。健康診断は、会社の従業員の健康を守るために行われていますが、不幸にも従業員が突然死した場合で、会社が健康診断を怠っていた場合には、会社が多額の損害賠償責任を負いかねず、そのためにも健康診断の実施は重要です。そこで、今回は、健康診断に関する法的事項・裁判例を中心に情報をまとめていきたいと思います。
2.会社が健康診断を実施せず、従業員が病気等になった場合に、会社が責任を問われた裁判例
会社が健康診断を実施せず、従業員が病気等になった場合で、会社が責任を問われた裁判例としては、以下のものがあります。
真備学園事件(岡山地判平成6・12・20労働判例672号42頁)
:基礎疾病としての高血圧症をもつ私立高校教師が昼休み中に、応接室で生徒に注意、指導中昏倒し脳内出血で死亡した場合につき、被告学校は安全配慮義務を尽くしていないとして損害賠償の支払いが命ぜられた事例
富士保安警備事件(東京地判平成8・3・28判時1635号109頁)
:健康診断の不実施等による会社の安全配慮義務違反および、代表取締役個人の不法行為責任が認められ、会社および代表取締役に6,294万円の損害賠償を負わせた事例
3.労働者が健康診断を受診しない場合は?
仮に、会社が健康診断を実施したとしても、労働者が受診しない場合はありえます。そのような場合、労働者には受診義務が認められるのでしょうか。
(1)法定されている健康診断の受診義務
まず、労働安全衛生法(以下、「法」とします)66条1項・労働安全衛生規則43条ないし45条により定められている事項については、同法66条5項により労働者に受診義務が認められています。
(2)法定されていない健康診断の受診義務
法定されていない事項の健康診断にも、使用者が労働者に対して持つ指揮命令権が及びます。 電電公社帯広局事件(最判昭和61・3・13労判470号6頁)によれば、就業規則の合理性を根拠として、使用者の精密検診受診命令権を肯定しています。
また、就業規則の規程がない場合でも、京セラ事件(東京高判昭和61.11.13判時1216号137頁)や空港グランドサービス・日航事件(東京地判平成3.3.22判時1382号29頁)において、「被用者の選択した医療機関の診断結果について疑問があるよう場合で、使用者が右疑問
を抱いたことなどに合理的な理由が認められる場合」使用者指定の医師による受診義務の例外的な発生があり得ることを認めています。
電電公社帯広局事件(最判昭和61・3・13労判470号6頁)
:就業規則の健康管理規定にいわゆる職員の健康保持義務、健康管理従事者の指示・指導を遵守する義務、および要管理者たる職員が衛生管理者、所属長、医師および健康管理者の指示に従い、健康回復に勤める義務等の定めが合理的なものであり、それら健康管理上の義務は労働契約の内容になっていると解した事例
4.法律が事業者に課している義務は?
法66条1項は、事業者に健康診断の実施を義務付けています。この義務に違反した場合は、50万円以下の罰金が科せられます(法120条)。健康診断は、特定の危険な業務のケースのみに適用される「特殊健康診断」とそれ以外の場合に適用される「一般健康診断」があります。「一般健康診断」でも、雇入れ時に行う健康診断と、年に1回行う定期健康診断では義務付けられている内容が異なっています。
リンク:健康診断を実施しましょうー厚生労働省(PDFファイル)
また、健康診断を受けた後も、労働者への結果通知(法66条の6)や5年間の個人健康診断結果表の保存(法66条の3)等法律上の義務があります。
5.終わりに
健康診断の結果、異常が見つかった場合、会社としては十分配慮しなければなりません。こういった、配慮義務を怠り、不幸にも労働者が亡くなった場合には、不法行為による損害賠償責任を会社が負う可能性があります(東京高裁平成11・7・28判時1641号54頁参照)。
更なる精密検査が必要とされた場合は、
①労働者が健康診断の結果を知らない場合は労働者に知らせる
②精密検査が必要とされた労働者に関して、どのような措置を会社がとるべきか、医師の意見を聞く(法66条の4)
③医師の意見を聞いた結果、必要なときには、勤務時間を短縮したり、作業内容を変更するなどの措置をとる
ことが必要といえるでしょう。
東京高裁平成11・7・28判時1641号54頁
:使用者は、高血圧症に罹患する労働者が致命的な合併症を生ずる危険があるときは、持続的な精神的緊張を伴う過重な業務に就かせないようにしたり、業務を軽減すべき配慮義務を負うところ、会社は同人に過大な精神的負担がかかっていることを認識できたにもかかわらず、特段の負担軽減措置をとることなく過重な業務を継続させたと認められることから、会社の安全配慮義務違反が認められるとして認容された事例
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