契約書審査に必要な法的知識まとめ
2017/05/17   契約法務, 民法・商法, その他

契約ってなに?

契約とは2つ以上の意思表示の合致によって成立する法律行為とされています。契約となると、単なる約束と異なり、法的拘束力が生じます。そのため、契約内容に不履行があれば、損賠の賠償義務を負ったり、裁判所を通じて強制履行を受けたりといったことが有り得ます。契約は申込みがなされ、それに対して承諾があれば有効に成立します(民法555条)。民事法では契約自由が大原則です。ゆえに、口約束だろうが、書面を作ろうが、署名押印があろうがなかろうが、意思の合致が有れば契約は成立するのです。
契約書の基礎知識(飯田橋総合法務オフィス)
そもそも契約書とは(契約書の達人)
契約とは何か、知っておこう(顧問弁護士相談広場)
なぜ契約書を書面で作成するのか(ヒルトップ法律事務所)
ただし、契約方式の自由には例外もあります。例えば、保証契約(民法446条2項)が挙げられます。保証人は主債務者が履行をしない場合に履行をする責任を負います。そのため、契約の際に保証人が慎重に義務内容を確認して契約できるようにという趣旨で書面作成が求められています。また、法律上契約内容を書面で明らかにするよう求めている場合もあります。例えば、農地の賃貸借契約(農地法21条)では契約の成立には書面作成は必要とされていませんが、期間や賃料、支払条件等を契約書で定めるように求められています。
契約の際に書面の作成が法律で義務付けられているもの(行政書士古川紀夫事務所)

契約と法律の関係

ビジネスを規律するルールとして、ご存知の通り、法律と契約があります。民事法の分野では契約自由の原則があるため、基本的には契約によって定めた内容が法律に優先されます。
契約自由の原則とは(契約書の達人)
ただし、法律の中には当事者の合意で変更することができない条文があります。これを、合意により変更できる任意規定と区別して、強行規定といいます。すなわち、契約での合意について、強行規定が一種の歯止めの役割を果たします。
任意規定と強行規定(契約書の達人)
契約による合意は自由なのが原則ですので、契約による合意がない場合に初めて法律の任意規定が補充的に適用されます。法律には一般法と特別法があり、特別法がない場合に一般法が補充的に適用されます。一般法と特別法という判断は相対的です。例えば、商法に関して、民法に対しては特別法ですが、会社法に対しては一般法です。
一般法の意味(民法条文解説.com)
一般法と特別法(契約書の達人)
一般法・特別法(wikipedia)

さらに、法律の各条項については総則規定と各論規定があります。民法は13種類の契約、贈与、売買、交換、消費貸借、賃貸借、使用貸借、雇用、請負、委任、準委任、寄託、組合、終身定期金、和解について規定しています。これら13種類の契約を典型契約といい、それ以外を非典型契約といいます。典型契約には民法の各論規定の適用があり、非典型契約には民本の総則規定の適用があります。
典型契約とは(契約書の達人)
非典型契約とは(契約書の達人)
典型契約(国民生活センター、PDF)
つまり、強行規定に反しない限り、契約、特別法、一般法の順にそれぞれ補充的にルールが適用され、条文については各論規定、総則規定の順に補充的に適用されます。契約書を作成するに当たり、契約書と法律の適用関係と理解しておくことは非常に重要です。
契約と法令の違いは?(顧問弁護士相談広場)
契約法(wikipedia)

どんなときに契約をするのか

法律にルールがない場合に契約に条項を設けておく、契約書にルールがないので法律の条文で解決する、という場面は想像しやすいかと思います。他にも、法にルールがあるのに契約書でも同内容の条項を設けている場合もあります。これは、法律のルールを改めて確認する趣旨や、文言に解釈上の争いが生じる可能性がある場合に解釈を明確化して無用な争いを排除する趣旨があります。さらに、強行規定に反しない限りで、法にあるルールを修正していく場合があります。

一般的な条項の内容と対応する規則

契約の種類や当事者によって定められる条項は多様になりますが、どのような契約でも用いられやすい条項があります。以下では、一般的な条項の基本的内容を見ていきます。条項がない場合の補充的な法律規定も適宜参照していきます。
一般条項 契約書チェックにおける注意点(arts legal office)
契約書の条項(さつき行政書士事務所)
契約書解説~契約類型別の契約書及び契約条項解説~目次(寺村総合法務事務所)
一般条項について(弁護士法人クレア法律事務所)
契約書の特約(契約書の達人)
重要な契約条項(業務委託契約書の達人)
重要な契約条項(秘密保持契約書の達人)

●契約の目的
当事者が何についてどのような取引をするのかを明確にするための規定です。契約の趣旨や、権利義務の概略を総論的に記載する規定なので、訓示的な側面が強い場合が多いです。ただし、契約に定めのない事柄が問題になった場合に、目的規定から契約の趣旨を解釈する場合があります。また、秘密保持契約では「目的外使用の禁止」との関係で目的規定が重要視されます。
契約の目的(業務委託契約書の達人)
契約の目的(秘密保持契約書の達人)

●定義条項
契約書における文言の解釈について争いが生じる可能性のある場合に用語の定義を記しておく規定です。契約に定めない場合、法律に定義が規定されていれば法律の定義を拝借することになります。
定義条項(arts legal office)
●契約の対象
契約の目的物が物である場合には対象物を明確にします。対象物が労務等のもの以外の場合には、内容がはっきりするように記載します。

●契約金の支払い方法
現金、手形、銀行振り込みなど、支払方法を記載します。履行の場所については民法では484条、商法では516条で定められています。

●権利の移転、発生時期
契約の対象となる権利がどのタイミングで移転するか明確に定めます。例えば物の売買では所有権の移転時期が問題となります。担保、転売、危険負担など様々な場面で移転時期が重要な判断要素となります。民法では、物権の所有権移転時期について規定されています(176条)。
所有権の移転(契約書の達人)

●費用負担
目的物の引渡し費用、運搬費用、保管費用などをいづれが支払うのかについて定めます。契約金の支払方法が銀行振り込みであった場合には振込費用の負担も問題になります。民法では、義務の履行者が費用を負担すると定められいます(民法485条)。費用負担については民法、商法ともに各契約類型ごとに多くの特則が設けられています。例えば、商法510条で契約の申込みを受けた者が申込みの際に受領したものを自己の費用負担において保管すべきことが定められています。

●履行期限
例えば売買契約における商品の納入時期・受入検査時期、請負契約における仕事の完成時期、代金の支払い時期などに関する定めです。契約書で定めない場合について、民法135条以下、412条で総則的に定められています。

●契約期間
契約の存続期間についてさだめるものです。契約期間の民法では140条以下に規定があります。賃貸借についての民法604条など契約ごとに特則がある場合があります。
契約書覚書センター
契約期間(arts legal office)

●解除条項
相手方の義務不履行等があった場合に契約を消滅させることを認める規定です。民法総則では540条以下に総則的な規定が置かれています。また、各契約類型ごとに各論的に解除権が規定されている場合があります。商法でも、代理商(30条)、定期売買(525条)など多くの特則規定が設けられています。

契約書のポイント~解除条項~(法務・税務・労務などの問題解決エンジン)

●損害賠償規定
契約上の義務の不履行や、不法行為によって損害が生じた場合に、損賠の賠償を求める規定です。また、損害賠償の予定、違約金、免責事項を定める場合もあります。民法では415条で債務不履行責任に基づく損害賠償請求権、709条以下で不法行為に基づく損害賠償請求権が定められています。

損害賠償責任(契約書の達人)

●期限の利益の喪失条項
期限の利益を失わせ、履行請求、担保権実行、契約解除を可能にするための規定です。民法137条では破産手続きの開始決定等の事由が発生したときには期限の利益が喪失する旨が規定されています。
契約書における「期限の利益」が喪失するのはどんなとき?
期限の利益の喪失(契約書の達人)

●危険負担条項
契約当事者双方の責めによらない不可抗力によって、目的物が滅失・損傷した場合にどちらが負担を負うのかについての定めです。民法では534条で債権者主義、536条で債務者主義を定めています。商法では運送物の滅失についての576条があります。
契約書・覚書サポートセンター
危険負担(契約書の達人)

●瑕疵担保責任規定
契約の目的物に原始的瑕疵があった場合に、売買契約なら売主への責任追及を認める規定です。瑕疵担保責任の期間、内容、範囲などを定めます。民法では570条に目的物に「隠れた瑕疵」があった場合について規定しています。商法では商事売買についての526条が規定されており、買主に目的物の検査義務等を定めています。
弁護士法人咲くやこの花法律事務所
瑕疵担保責任(契約書の達人)
商人間の瑕疵担保責任(商法526条)

●相殺条項
相手が代金支払いを怠る場合に、相手方のもつ権利と自己の持つ権利を対等額で消滅させ、代金の回収を図るための規定です。民法では505条以下に総則的なルールが定められています。商法では、交互計算(529条以下)についての規定があります。

相殺予約(契約書の達人)

●権利義務譲渡禁止条項
債権、債務、契約上の地位の譲渡を禁止するものです。法律上の規定については、債権の譲渡については原則として譲渡は自由に行えます。債務引受や契約上の地位譲渡については明文規定はありません。債権譲渡については466条以下に規定されています。商法では商号、営業の譲渡についての規定があります(15条以下)。

●権利非放棄条項
一方当事者が権利行使を怠っても権利放棄したものではない旨の確認、ある権利を放棄をしても他の権利を放棄するものではないことの確認をする規定です。
取引基本契約書のポイント6(寺村総合法務事務所)

●反社会勢力排除条項
近年多くみられるようになった条項で、暴力団やその関係先との契約に応じないことで、その名の通り反社会勢力の排除を目指す規定です。法的なルールとしては各都道府県の暴力団排除条例に定められています。

反社会勢力排除条項(arts legal office)

●準拠法条項
どの国の法律を適用するかについての条項です。主に国外取引で規定されます。法の適用に関する通則法7条以下に法的なルールが定められています。

準拠法(契約書の達人)

●裁判管轄
紛争が生じた場合に、いづれの裁判所で紛争を解決するのかについての定めです。民事訴訟法4条では、訴えられた被告の住所地を管轄する裁判所に管轄を認めるのを原則としています。
裁判管轄(契約書・覚書サポートセンター)
合意管轄裁判所(契約書の達人)

●分離可能性条項
契約中の条項が無効と裁判所と判断されても、他の条項に影響を及ぼすものではない旨を規定するものです。
取引基本契約書のポイント6(寺村総合法務事務所)

●誠実協議条項
契約に定めがない事項については、誠実に協議して解決する旨を定めておく規定です。

●完全合意条項
契約書面に記載されていない合意について法的拘束力を認めないこと、契約書面に記載のない契約締結に至る経緯を契約の解釈に用いないことを定める規定です。

●個人情報、秘密保持条項
契約の履行に際して取得した相手方の個人情報や営業秘密の保護、保持の義務を確認する条項です。
秘密保持条項1(マイベストプロ)
秘密保持条項(arts legal office)

●表明保証条項
ある事実について真実であることを保証する条項です。保証した事実が真実又は正確でなかったことが判明した場合、これによって相手方が被る損害を賠償する旨も記載されます。ある程度金額が大きな取引で記載されることが多いようです。
表明保証条項(鈴木基宏法律事務所)

●通知条項
契約上の求められる通知方法を定めておく規定です。内容証明郵便に限定する等の内容を定めます。
取引基本契約書のポイント6(寺村総合法務事務所)

●不安の抗弁権
不安の抗弁権とは、相手方の信用リスクや、相手方の契約の履行能力に不安を感じた当事者が、相手方に対して有する権利です。法令上認められた権利ではなく、判例により確立してきた権利です。
不安の抗弁権(契約書の達人)

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