取締役の刑事責任まとめ
2016/10/12   コンプライアンス, 商事法務, 会社法, その他

はじめに
会社経営上、重大なコンプライアンス違反があり、その事実が報道やインターネットを介して世間に公表された場合、会社の存続にかかわる重大な危機を生じさせる場合があります。そこで、法務担当者としては、会社の経営に関する刑事規制を知り、それを未然に防ぐための内部統制システムを構築することを求められる場合があります。仮に、問題が生じた場合も、それに適切に対処することが必要です。そこで、取締役の刑事責任についてまとめました。

〇会社法に関するもの
取締役の特別背任罪
取締役等が、「自己若しくは第三者の利益のため、又は株式会社に損害を加えるために、会社の任務に背く行為をし,会社に財産上の損害を加えた場合」に成立する。
(1) 最決平成21年11月9日刑集 63巻9号1117頁(拓銀特別背任事件)
 銀行の代表取締役頭取である被告人らが、実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対し、合理的な再建・整理計画もないまま、実質無担保で追加融資したことが、特別背任罪における取締役としての任務違背にあたるとし、株式会社北海道拓殖銀行の代表取締役頭取を務めていた被告人AとBそれぞれが 懲役2年6月とされた。
(2) 最決平成17年10月7日刑集59巻8号1108頁(イトマン事件)
中堅総合商社であったA社の代表取締役の地位にあった被告人が、共犯者らと共謀の上、ゴルフ場開発資金名目で、いずれも十分な担保を徴求することなく各融資を実行し、Aに損害を与えたことにつき、特別背任罪の成立を認め、 懲役7年とした原判決を是認した。
(3) 広島高裁平成16年9月21日
親会社であるA社及びその子会社であるB社の代表取締役を兼務していた被告人が、B社に利益を得させる目的で、商品価値を失っていたB社の長期在庫品をA社に買い取らせ、同社に代金相当額の損害を生じさせたことにつき、特別背任罪の成立を認め、被告人を 懲役2年6月、執行猶予4年とした。
弁護士法人中村国際刑事法律事務所

会社財産を危うくする罪
・「株式会社の計算において不正にその株式を取得したとき」
・「法令又は定款の規定に違反して、剰余金の配当をしたとき」
・「株式会社の目的の範囲外において、投機取引のために株式会社の財産を処分したとき」 などには、会社財産を危うくする罪の適用があります。
※会社の財産で、先物取引や、FX取引に手を出した場合にも成立する場合があるので、注意が必要です。

預合いの罪
株式会社の設立や新株発行に際して、取締役が株式払込取扱銀行と通謀し、個人的借金をしてその借入金を会社の預金に振り替えることによって株式の払い込みがあったように仮装し、同時にこの借入金を返済するまでは預金の引き出しをしないことを約束する行為を「預合い」といい、会社財産の払い込みの仮装となり、資本充実の原則に反するため、会社法上の罰則の適用があります。
株式会社あるてすた 新会社法基礎養成講義

株式の超過発行の罪
定款で定めた発行可能株式の総数を超えて株式の発行を行った場合に適用があります。
J-Net 21 中小企業ビジネス支援サイト

取締役等の贈収賄罪
取締役等の贈収賄罪は、「その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき」(会社法967条)に成立します。

株主等の権利の行使に関する贈収賄罪
総会屋に対して、金品を渡した場合などに適用があります。
J-Net 21 中小企業ビジネス支援サイト

判例 モリテックス事件
 株主総会に関連して会社提案と株主提案が対立し、委任状争奪合戦となった状況のものとで、総会における有効な議決権行使を条件として、株主1名につきQuoカード1枚(500円分)を会社が交付した事案において、このようなQuoカードの交付が会社提案に賛成する議決権行使の獲得を目的としたものであり違法であると裁判で争われた事案。
→ 結論として、500円のQuoカードの交付は、利益供与に該当し、違法。
弁護士法人虎ノ門中央法律事務所

〇他の法令に関するもの
法人税法違反
「納税義務者又は徴収納付義務者が、偽りその他不正の行為により、所得税ないし法人税を免れ又はその還付を受ける」(所得税法第238条、法人税法第159条)場合に適用がある。 
御器谷法律事務所

インサイダー取引
上場会社等(上場株式、上場REIT等の発行会社)の重要事実を知った会社関係者が、その重要事実が公表される前に、その上場会社等の株式やREIT等の売買等の規制対象取引をした場合、金融証券取引法上の罰則の適用がある。
楽天証券
・日本織物加工事件
M&A交渉の関わった弁護士が第三者割当増資による新株発行の重要事実を知って、公表前に株式売買を行った件で刑事責任を問われた事件(東京地裁平成9年7月28日判決) 
・野村證券中国人社員事件
野村證券中国人社員が職務上知り得たM&A情報に基づいて株式売買を行った事件で刑事責任を問われた(東京地裁平成20年12月25日判決)
→結論として、有罪、懲役2年6月、罰金100万円、追徴金約635万円、執行猶予4年の判決。

刑法上の罪
電磁的公正証書原本不実記録罪/文書偽造・同行使罪/業務上横領罪/詐欺罪 など

談合罪
国または公共団体の実施する競売や入札にあたって、競落 (落札) 価格を不正に決定させたり、談合金のような不正利益を得るために、入札者、競買人が協定することによって成立する犯罪です (刑法 96ノ3) 。
御器谷法律事務所

さいごに
取締役の法令違反行為については、当該担当取締役が刑事罰の対象となるだけではなく、株主代表訴訟や、これによって損害を受けた取引先からの損害賠償請求のリスクに晒されることになります。また、違法行為を予見できた取締役についても、監視義務違反が問われるなど、責任が生じることがあります。
何より、内部通報のルールを定めておくことや、関係する法律事務所や監査役と密に連絡を取り合っておくなど、違法行為を防ぐ仕組みづくりが何より肝要といえます。法務担当者としては、いま一度、内部統制の仕組みを見直すなどの対応を取られてはいかがでしょうか。

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