労働時間と休憩時間の境界についてのまとめ
2017/01/26   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

 労働基準法では、一定の要件が充足された場合に、労働者の労働時間の間に休憩時間を設けることが義務付けられています。しかし、労働者の業種・業務形態によっては、「労働時間」と「休憩時間」の境界が曖昧となる状況が生じてしまう可能性があります。この状況は、企業にとって労働者から未払い賃金の請求を受けるリスクや労基法上の罰則を受けるリスクをはらんでいます。そこで、今回は、労働者の就業における特定の時間が「労働時間」と「休憩時間」のいずれにあたるのか争われた事例についてまとめました。

厚生労働省HP(労働時間に関する制度 概要)

労基法上の労働時間の概念

 労働基準法上の「労働時間」とは、一般に、使用者が実際に労働者を「労働させ」る実労働時間を指します(労働基準法32条参照)。しかし、「労働時間」の定義について労働基準法は明確に定めていません。この点について、判例は「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できる」時間と定義しています(三菱重工長崎造船事件)。
この「使用者の指揮命令下に置かれている」か否かの判断基準は一概に明確ではありませんが、①指揮命令や黙認など使用者の関与の存在だけでなく、②職務遂行と同視し得るような状況の存在をあわせた2要件から判断される傾向にあります。

最判平成12年3月9日  三菱重工長崎造船事件 裁判所HP

休憩時間の概念

使用者は、労働時間が6時間を超え8時間以内の場合には少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければなりません(労基法34条)。この休憩時間は、事業場の全労働者に一斉に与えるのが原則ですが、事業場の過半数代表との労使協定がある場合にはその例外が認められます(同条2項)。また、休憩時間は労働からの解放を保障する時間であるので、労働者が業務から完全に開放された状態で自由に利用できるようにしなければなりません。(同条3項)。

労働時間か休憩時間かが争われた事例

「労働時間」と「休憩時間」の概念をそれぞれ見てきましたが、業務の種類、就業形態によっては、労働者の置かれている当該時間が「労働時間」にあたるのか、それとも、賃金の支払いの必要のない「休憩時間」にあたるのか曖昧な状況が生ずることがあります。そこで、以下、「労働時間」・「休憩時間」のいずれにあたるのかが争われた事例をまとめます。

① 大星ビル管理事件 最一小判平成14・2・28
 ビル警備員の夜間仮眠時間が「休憩時間」にあたるのか「労働時間」にあたるのか争われた事例
 仮眠室への滞在と警報等への対応が義務付けられていたことから、労基法上の「労働時間」に該当すると判断された。

最判平成14年2月28日 大星ビル管理事件 裁判所HP

② 大林ファシリティーズ事件 最二小判平成19・10・19
 マンション住み込みの管理員が会社から午前7時から午後10時までの時間、指示・管理業務の遂行を求められていた事例
 上記時間帯に管理室の隣の居室で過ごしていた不活動及び所定労働時間の前後に住民や外来者からの要望に随時対応せざるを得ない状態に置かれている時間が労基法上の「労働時間」に該当すると判断された。
最判平成19年10月19日 大林ファシリティー事件 裁判所HP

③ 中央タクシー事件 大分地判平成23・11・30
 タクシー運転手の30分を超える会社の指定場所以外での客待ち待機時間が「労働時間」にあたるのか争われた事例
 客待ち待機をしている時間が、30分を超えるものであっても、会社の具体的な指揮命令があれば直ちにその命令に従わなければならず、また、運転手は労働の提供ができる状態にあったのであるから、使用者の明示または黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であったことは明らかであるとして、「労働時間」に該当すると判断された。
大分地判平成23年11月30日 中央タクシー事件 裁判所HP

まとめ

 上記判例において、問題となった時間が労基法上の「労働時間」と判断された基準は、いずれも当該時間が労働者にとって休息のために完全に労働から解放されることを保障されている時間であるか否かという点です。
 仮に、労働基準法に定められた休憩時間が労働者に付与されていない場合には、使用者は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる危険があります(労働基準法119条1号)。

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