民事再生手続による事業譲渡のまとめ
2016/12/21   事業再生・倒産, 事業承継, 倒産法, その他

1 はじめに

 青森県内において、路線バスや高速バスを運行する南部バス(本社:青森県八戸市)は2016年11月28日に、民事再生法の適用を東京地裁に申請し、同日保全命令を受けました。同社は、岩手県北自動車(岩手県盛岡市)に全事業の引き受けを要請し、協議を進めています。そこで、今回は法的再生手法のうち、民事再生手続に基づく事業譲渡についてまとめたいと思います。

2 民事再生手続とは

 経済的に困窮状態にある債務者が、裁判所の認可を受けた再生計画を策定することで、債権者・債務者間の権利関係を調整し、債務者の「事業又は経済生活の再生」を図る手続です(民事再生法1条)。具体的に、再生手続は債務者又は債権者の申立てにより開始します。もっとも、債務者が「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがある」又は「事業の継続に著しい支障」を来さずに、「弁済期にある債務」を弁済できない状態である必要があります(民事再生法21条1項)。

民事再生について(よく分かる事業再生)

民事再生申立の書式

3 事業譲渡とは

 事業の譲渡とは、会社がある事業を譲渡することであり、売買契約(民法555条以下)や賃貸借契約(601条以下)等の取引行為によってなされます。具体的には、会社法の第7章以下の条文で規定されています。そして、会社が事業の「全部」や「重要な一部」の「譲渡」をする場合には、株主総会において出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を経る必要があります(467条1項各号、309条2項11号)。他方で、「他の会社の事業の全部の譲受け」をした場合も、同様です(同条号)。

事業譲渡標準契約書無料書式

事業の譲渡等(やさしい会社法)

4 民事再生手続における事業譲渡

 まず、再生手続開始後において、債務者が事業の「全部」や「重要な一部」を譲渡する場合には「裁判所」からの「許可」 が必要です。もっとも、債務者が「事業の再生のために必要である」ような場合でなければ、裁判所は「許可」を与えることができません(民事再生法42条1項1号)。
 また、株式会社である債務者が「債務を完済」できないときは、債務者が裁判所に対して「申立」を行えば、株主総会において出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成に代わる「許可」を得ることができます(43条1項)。なぜなら、会社の有する事業の資産価値が低下することを防ぐべく、株主総会の決議を待たずに早急に事業譲渡する必要があるからです。もっとも、「事業の継続のために必要」な場合に限定されています(同条但書)。
 これらの規定は、事業再生を行いたい債務者企業にとって、有利といえます。

八田企業総合法律事務所

民事再生法

5 事業譲渡方式のメリット・デメリット

(1)債務者側
 まず、債務者企業のメリットとしては、再建しようとする事業を事業価値が下がる前に再生手続から分離できるので、早期の事業再建に繋げることができます。また、優良事業部門のみを譲渡対象にすることで、債務者企業はリストラ等の手間を省くことができます。

 他方で、デメリットとして、債務者企業が譲渡した事業の取引先との契約や従業員との雇用契約が当然に引き継がれるわけではないため、個々の相手方から契約の引継ぎの同意を得るか、あるいは、契約を新たに結び直す必要があります。

(2)債権者側
 債権者は、債務者企業から債権者平等原則に基づき、平等に弁済を受けることができるとのメリットがあります。

 つまり、債務者企業のうち、再生の迅速性が要求される中小企業にとっては得られるメリットが大きいといえます。

事業譲渡方式(よく分かる事業再生)

事業譲渡の全知識|事業の相続で知っておくべき手続きの全て

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