過労死と安全配慮義務の関係まとめ
2016/11/11   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

 昨今メディアを頻繁に騒がせている問題の一つとして過労死の問題があり、これはKAROSHIとして海外からも注目の的となっております。また、法律上も賠償請求の対象として争われ、過労死の原因となる業務を指示した使用者に、安全配慮義務違反による損害賠償の責任が認められることがあります。では、この「安全配慮義務」とはいかなるものなのでしょうか、まとめてみました。

「安全配慮義務」とは

 安全配慮義務とは、使用者の労働者に対する義務の一つです。もともとは裁判所の判断により認められたもので、使用者は、労働者が労務提供のための場所、設備、器具等を使用し、又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているとされました。

参考
久志田社会保険労務士事務所ホームページ
 
現在では、安全配慮義務は労働契約法5条に明文化され、使用者が、「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と使用者の当然の義務として定められました。また、ここでの生命身体等の安全には、心身の健康も含まれています。

参照
厚生労働省ホームページ
厚生労働省 「労働契約法のあらまし」(PDF) p8
独立行政法人 労働政策研究・研修機構

具体的な事例

 労働契約法5条制定の参考となった代表的な裁判例が二つあります。
 一つは、陸上自衛隊において、車両整備中に後退してきたトラックに隊員がひかれ死亡した事件です。この事件では、安全配慮義務について契約の内容として書かれているか否かを問題とせず、信義則上の当然の義務と認めています。また、義務の具体的な内容は、職種や地位、安全配慮義務が問題となる具体的な状況により判断されるとされました。そして結果として隊員遺族の賠償請求が認められました。
 もう一つが、宿直勤務中の従業員が盗賊に殺害された事例で、この事件でも損害賠償責任が認められています。この事件では、宿直室への盗賊の侵入を妨げる物的施設の有無、危害を回避できる設備の有無やそれらがない場合の安全教育が行われたかなどの事実が安全配慮義務違反の要素として考慮されました。

参照・詳細
厚生労働省「労働契約法のあらまし」( PDF) p30~、参照

過労死との関係

 安全配慮義務違反が認められる契機となった上記裁判では、過労死は扱われてはいませんが、近年では過労が原因での病死や自殺といった過労死と言われる事案においても安全配慮義務違反による損害賠償が認められるに至っております。例えば、年間の平均労働時間が約3,000時間の方について、同じ方がさらに重責を担う役職に就き、精神的負担から脳幹部出血により死亡した事件では高等裁判所が3,200万円の賠償を認めています。また別の事件では、長時間の労働、深夜勤務、休日出勤など過重労働が続きうつ病になった方が自殺し、一審で1億2,600万円の支払いが命じられました。

参照・詳細
東京都労働相談情報センター

おわりに

 今回ご覧いただいた安全配慮義務違反に関する事例は全体の一部です。また、被害者が死亡するなどの大事に至らずとも、労働契約法5条に定められたように心身の健康を害するに至った場合も安全配慮義務違反が認められる可能性は十分にあります。裁判となれば相当の労力がかかりますし、企業のイメージにも影響します。こうしたトラブルが起こらないよう、社内体制として勤務時間の調整やカウンセラーによるメンタルケアなどを整えるとよいかもしれません。

参考
ドクタートラスト(メンタルケアについて)
弁護士による労働問題Online
厚生労働省 総合労働相談コーナー

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