企業による不祥事の公表まとめ
2016/10/04   コンプライアンス, 危機管理, 民法・商法, その他

・はじめに

先日以下のような企業による不祥事がありました。
 鳥貴族誤提供事件(概要)
平成28年7月19日~同年7月23日の5日間
鳥貴族南柏店において使用されるべき焼酎に代わり
食品添加物アルコール製剤を使用したチューハイが提供された。
誤提供されたチューハイは五日間で合計151杯だった。
平成28年8月15日
以上の事実を鳥貴族はHP上で公表した。
PDFファイル お客様への食品添加物アルコール製剤誤提供についてのお詫びとお知らせ

・不祥事の公表

 企業としては、上記事件のように不祥事を起こした場合その事実を
公表するかを検討することになります。
 情報の公開は、顧客・消費者の方々との信頼関係を維持する上で
最も重要であるといえます。
参考サイト企業・機関の事件・事故に対する消費者の意識調査

それでは、公表までに何を検討するべきでしょうか。

①不祥事を公表する法的義務があるか
 意外に思うかもしれませんが、基本的には企業は不祥事を必ず
公表しなければならないものではなく、法令等で義務付けられているのは、大きく分けて
上場企業が、株価等に影響がある行為を行った場合に
 その事実の公表が義務付けられています。不祥事が発生すると、
 企業の株価に影響が出るのでその事実を明らかにすることを目的としています
 (有価証券上場規程402条2号a、402条2号f、402条2号x)。
行政により企業に対し何らかの処分があった場合に
 官公庁がその事実を公表することになるのが通常です。
 例えば、食品衛生法54条に基づく回収命令が行われたとき、
 同法63条による厚生労働大臣の公表がなされます。
その他個別の法律により公表が義務付けられることがあります。
 例えば、金融商品取引法等により公表が義務付けられていることがあります。
 上記の場合には、法的に公表しなければなりません。

参照条文 有価証券上場規程(東京有価証券取引所)
     食品衛生法

②法的義務がなかった場合、公表するか否か
 法的義務がなかった場合には、企業としてその事実を公表するか決めることになります。
この際、考慮事項として挙げられるのは、不祥事の原因、公表による社会的影響、後に公となってしまう可能性の程度等です。
 特に、公表する必要はないと判断して公表を見送った後に、マスメディア等により事実が公になった場合には、事実を隠蔽したという印象を持たれかねません。
 その状況を避けるため、法的義務はなく公表をしないという判断を下すのであれば、後に事実が公になったとしても、最低でも事実を隠蔽したといわれないような合理的な説明が必要となるでしょう。

参考サイト 不祥事を起こした場合の公表するかしないかの判断基準

③公表する場合
 公表するとした時、早急に公表したほうが良いと当然考えると思います。
実際鳥貴族事件でも誤提供があった日から1ヶ月と待たずに(この時間を早いと捉えるか、遅いと捉えるかは人によるでしょう)、公表に至っています(公表日は平成28年8月15日、内容が少し修正された再公表が8月16日)。
しかし、不十分な事実関係の確認での公表はかえって消費者・顧客の心証を損ないかねません。特に、不祥事の事実を企業が認識してから情報が企業内部でも錯綜することが多くあります。情報を集約する部署をあらかじめ定めて企業内に通知徹底することが望ましいです。
そして、十分な公表できる状況ができ次第、公表することを心がけるべきです。

参考サイト 不祥事でも気を付けたい公表のタイミング
以上より、企業による不祥事が発生した場合、
①まず、公表の法的義務があるか確認し
②法的義務がなかったとしても公表するべきか検討し
③法的義務があった又は公表することにしたら、公表できる状況を整えていき
不祥事の事実を公表することになるでしょう。

・公表に失敗したと考えられる事例

それらのことを念頭に公表に失敗したと考えられる事例を紹介したいと思います。
アクリフーズ(現マルハニチロ)農薬混入事件(概要)
平成25年11月13日
1件目の異臭(石油臭)苦情が発生(企業による不祥事の認識)する。
同年12月13・26・27日
苦情現品からマラチオン等を含む劇物が相次いで検出される。
同年12月29日
第一回記者会見(公表)
謝罪及び群馬工場品全品の自主回収を発表、マラチオンの毒性評価を軽視した発表がされる。
「一度に60個のコーンクリームコロッケを食べないと発症しない量になります。」
同年12月31日
第二回記者会見(公表)
マラチオンの毒性評価について訂正及び謝罪がされる。
「一度に約1/8個のコーンクリームコロッケを食べると、吐き気、腹痛などの症状を起こす可能性があります。」
平成26年1月25日
第三回記者会見(公表)
容疑者(従業員)の逮捕を受け、謝罪及びマルハニチロHD・アクリフーズ両社長の引責辞任が発表される。

事件の詳細は省きますが、この事例においては、
・事件(不祥事)を企業が認識して(平成25年11月13日)から第一回記者会見が同年12月29日と遅れた
・第一回記者会見において、健康被害を過小評価する社長の発言があり、その2日後にその発言を訂正する等公表時の情報不足が露見された点
・親会社(マルハニチロHD)、食品事業会社(マルハニチロ食品)、製造子会社(アクリフーズ)という複雑なグループ企業の関係があり、その中で危機管理の一元化が欠落していた
以上の失敗により、杜撰な不祥事対応がなされたと評価できます。
そして結果として企業への信頼を失墜させ、公表を含む企業の危機管理の重要性を改めて認識される事件であったといえるでしょう。

PDFファイル ファイルアクリフーズ農薬混入事件の記録

・おわりに

必ず失敗しない人がいないように企業にとって不祥事は避けがたいものです。
近年では不祥事が発生した場合における企業の対応は注目されています。
しかし、公表時における対応が適切であれば企業の社会的評価を上げる機会でもあります。
一度、事実の発覚→事実の確認→公表するかの判断→事実の公表の流れを想定しておくべきでしょう。

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