M&Aにおける表明保証条項まとめ
2016/09/13   M&A, 戦略法務, 民法・商法, 会社法, その他

表明保証条項とは

 M&Aの際、事業譲渡契約、株式譲渡契約など、一定の時点における契約当事者や目的物の内容等について、表明保証する条項が設けられます。表明保証条項とは、契約締結時(またはクロージング時)において、一定時点における契約当事者に関する事実や契約目的物の内容等に関する事実について、当該事実が真実かつ正確である旨を、一方当事者が他方当事者に対して表明し、かつその内容を保証する条項をいいます。レップ・アンド・ワランティ(Representations and Warranties)ということもあります。
(参考:M&A用語集一覧M&A契約条項に関するポイント解説|図解M&A第5回|プライムジャパン株式会社

表明保証条項の実際の例

第2条(表明保証)
1.乙および丙社は、丙社の株式につき、いかなる第三者も、ストックオプション、新株予約権、その他の方法で、丙社の株式を取得する権利を有しないことを甲に対し表明し、保証する。
2.乙および丙社は、甲に提出した丙社の財務諸表の内容が真実かつ適正であること、丙社の貸借対照表に計上されていない保証債務等、簿外の債務が存在しないことを、甲社に対して表明し、保証する。
3.乙および丙社は、平成 年 月末日以降、丙社の財務または資産の状況、経営成績等に重大な悪影響を及ぼす恐れのある事由が生じていないことを、甲に対して表明し、保証する。
4.乙および丙社は、丙社がその従業員に対して、未払いの賃料、時間外手当、社会保険料などの労働契約に関する債務は存在しないことを、甲社に対して表明し、保証する。
5.乙および丙社は、丙社が所有する土地や建物に有害物質による汚染は無いことを、甲社に対して表明し、保証する。
6.乙および丙社は、丙社が第三者の特許権、実用新案権、商標権、意匠権、著作権等を侵害していないことを、甲社に対して表明し、保証する。
7.乙および丙社は、丙社が第三者から訴訟その他のクレーム等を受けておらず、また、合理的に予見される範囲内での紛争も存在しないため、丙社に帰属する可能性のある重大な債務が存在しないことを、甲社に対して表明し、保証する。


第8条(解除と損害賠償)
第2条の表明保証責任の違反、または、その他の重大な瑕疵が発見され、その違反または瑕疵が重大かつ回復困難で、甲社または乙としては、本件株式譲渡の趣旨を全うできない時は、本合意書を解除できる。この場合は、解除に対して責任ある者は相手にその損害を賠償する責に任ずる。賠償の額は、代金額の50%を上限とする。
(出典:(PDFファイル)M&A・企業再生・民事再生|M&A関連契約書の検討|東京の弁護士 金子博人法律事務所 株式譲渡契約書

表明保証条項の目的

 M&A取引の際には買い手は通常デューデリジェンスを行いますが、M&A対象事業等の内容(特に偶発債務等)に関する調査・把握には限界があり、必ずしも全てのリスクが明らかになるわけではありません。またデューデリジェンスの際に入手された情報に虚偽がある可能性もあります。そのため、M&Aの当事者が他方当事者に提示した情報等が真実であることを表明及び保証させ、想定していない事象が発生した場合のリスク負担や、提示された情報が事実に反する場合に生じた損害を補償するための取り決めを行っておく必要があります。
 例えば、株式譲渡契約書の中で、売主が、対象会社について、「財務諸表が完全かつ正確であり,一般に承認された会計原則に従って作成されたこと」との「表明保証」をすることが一般的ですが、その売主が粉飾決算をしていた場合、「表明保証」違反となり、買主は売主に対して、「表明保証」違反に基づく補償請求・損害賠償請求をすることができます。
(参考:M&A契約条項に関するポイント解説|図解M&A第5回|プライムジャパン株式会社表明保証違反の損害を請求された場合 | M&A・国際法務に強い弁護士はM&A総合法律事務所

近時の裁判例の動向について

近時の判例について代表的なものを紹介します。

表明保証違反に関する買主の主観的要件に言及した事例(東京地裁平成18 年1月17 日判決)
【事案】
 XがYとの間で、デューデリジェンスを実施した後、Yの所有する株式をXに譲渡する契約を締結した。その後、当該株式についてYによる会計上の不正があったことが判明した。Xは、Yが各表明保証条項に違反したことを理由に、損害賠償を求め、訴えを提起した。
【判旨】
 一般に、Xが、Yの表明保障条項違反の事実について、軽微な調査すら行わずに知らなかった場合(Xに重過失がある場合)には、XはYに対して表明保障条項違反による損害賠償請求はできない。
 本件の会計上の不正処理について、通常のデューデリジェンスを実施した場合は、一般的な調査は行ったといえ、Xに重過失は認められない。よって、本件ではXによる損害賠償請求が認容される。

 他に最近の判例を紹介しているものについて以下にあげておきます。
M&Aにおける表明保証条項の法的意義(18.May.11) | 弁護士法人 虎門中央法律事務所
弁護士コラム | ひかり総合法律事務所 M&A契約における表明保証違反に関する裁判例の動向
M&A契約における買主の表明保証責任 [企業法務] | 法律のことならいいねを押したい弁護士ブログ

おわりに

 法務部門としては、表明保証の範囲や、表明保証条項に違反した場合の責任に関する判例の動向に継続的に注意を払い、紛争のリスクを軽減していく必要があるといえます。

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