独占禁止法で禁止される「不当な取引制限」 まとめ
2024/05/08   コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに


 企業同士が連絡を取り合い、本来それぞれの企業が決めるべき商品の価格や生産量を共同で取り決める行為を『カルテル』と言います。競争が無くなり、価格は高止まりし、本来もっと安く購入することができたはずの商品を消費者は高値で買わされることとなります。

また、国や自治体が発注する公共事業の入札に関して、企業同士が話し合い、どの企業が受注するかを取り決め、他の企業はそれが実現するように協力するといった行為を『入札談合』と言います。本来、事業者同士が価格競争を行い、最も安値で入札した事業者が落札できるところ、元から決められた企業が高値で受注でき、税金が無駄に多く消費されることなります。

このように、公正な競争を根底から否定し、経済を停滞させるこれらの行為は『不当な取引制限』として独禁法で厳しく禁止されています(第2条6項、第3条後段)。

今回は、このような『不当な取引制限』について詳しく見ていきます。

 

不当な取引制限とは


 独禁法第2条6項によると、『不当な取引制限』とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう」とされます。

上述したように、価格カルテルや入札談合が典型例と言えます。

要件は、この条文にあるように、①事業者が、②共同して、または取引の相手方と相互に拘束し、遂行することにより、③公共の利益に反して、④一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなります。

以下、具体的に要件を見ていきます。

 

不当な取引制限の要件


(1)事業者
 不当な取引制限の行為主体は「事業者」とされています。そして、その行為としての性質上、必ず複数の事業者でなければ成立しないとされています。事業者同士が結託して行うことに本質があるからです。また、この行為主体については事業者団体も含まれるとされています(第8条1項)。

(2)意思の連絡
 不当な取引制限の行為要件は、上記のように「他の事業者と共同して…相互にその事業活動を拘束し、または遂行する」とあります。一見わかりにくい条文ですが、一般的には「意思の連絡」と「相互拘束」と解されています。

それでは、この「共同して」に該当する意思の連絡はどのような場合に認められるのでしょうか。事業者同士が話し合い、ある製品の価格を上げることを合意した場合に、意思の連絡が認められるのは当然として、それ以外の場合はどうでしょうか。

この点、裁判例では、意思の連絡とは、「複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引き上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があるこを意味し、一方の対価引き上げを他方が単に認識、認容するのみでは足りないが、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意するまでは必要ではなく、相互に他の事業者の対価引き上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りると解するのが相当である」としております(東芝ケミカル事件 東京高裁平成7年9月25日)。

つまり、互いに価格の引き上げ等を行うことを認識して黙示的に認容していれば足りるということです。

(3)相互拘束
 次に、「相互拘束」とは、複数の事業者が、何らかの反競争効果の実現のために、意思の連絡を通じて互いの行動を調整し合う関係が全体として成立していることを指すとされています。

この拘束は、契約や法的な強制力は必要とせず事実的なもの、つまり紳士協定的なもので足りると考えられています。

(4)一定の取引分野
 不当な取引制限では、意思の連絡と相互拘束によって「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が要件となっています。それでは一定の取引分野とはどのようなものを言うのでしょうか。

一般に一定の取引分野とは、特定の商品・役務を巡って競争する一定の供給者郡と需要者郡とで構成される競争の場のことであり、「市場」と同義と言われています。

そして、一定の取引の対象となる商品の範囲、取引の地域の範囲等に関して、基本的には需要者から見た代替性の観点から判断され、必要に応じて供給者にとっての代替性の観点も考慮されて確定されるとされます。

需要者から見た代替性とは、たとえばある商品が値上げされたら、その代わりに別の商品を買おうというような関係が成り立つ状況を言います。

(5)競争の実質的制限
 競争の実質的制限について裁判例は、「競争自体が減少して、特定の事業者または事業者集団が、その意思である程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる形態が現れているか、または少なくとも現れようとする程度に至っている状態をいう」としています(東宝スバル事件 東京高裁昭和26年9月19日)。

公取委のガイドラインによりますと、競争の実質的制限に当たるか否かは、一律に特定の基準によって判断されるのではなく、個別具体的な事件ごとに総合的に判断されるとのことです。

その判断にあたっては、行為者の市場シェアやその順位、市場における競争の状況、競争者の状況、競争者の制度上の参入障壁の程度、実態面での参入障壁の程度、参入者の商品と行為者の商品との代替性の程度、需要者の対抗的な交渉力、効率性、消費者利益の確保に関する特段の事情などが考慮要素として挙げられています。

「消費者利益の確保に関する特段の事情」とは、問題となる行為が、安全、健康その他の正当な理由に基づき一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発展を促進するものである場合には例外的に判断に際して考慮される場合あるものとされています。

 

意思の連絡の立証


 不当な取引制限の要件の1つである「意思の連絡」の有無はどのように立証されるのでしょうか。書面など直接証拠があれば立証は容易ですが、そのような証拠がない場合は間接証拠を積み重ねることによって立証していくと言われています。

具体的には、(1)事前の連絡・交渉、(2)連絡・交渉の内容、(3)行動の一致の3つに分類して間接証拠を集めていくとされています。

上述した東芝ケミカル事件東京高裁判決でも、「特定の事業者が、他の事業者との間で対価引上げに関する情報交換をして、同一またはこれに準ずる行動にでたような場合には、右行動が他の事業者との行動と無関係に、取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によって行われたことを示す特段の事情が認められない限り、これらの事業者間に協調的行動を取ることを期待し合う関係があり意思の連絡があるものと推認されるのもやむを得ないというべき」としています。

経済状況等からたまたま各社値上げが同時期に行われた場合は問題ありませんが、そのような状況も認められない中で、各社一斉に値上げがなされ、合理的な説明が無い場合は意思の連絡が肯定される方向に傾くということです。

 

入札談合の要件


 不当な取引制限はこれまで述べてきたように「意思の連絡」と「相互拘束」が行為要件となっています。そして、入札談合事件に関して最高裁は、「基本合意は…各社が話し合い等によって入札における落札予定者および落札予定価格をあらかじめ決定し、落札予定者の落札に協力するという内容の取決めであり、入札参加事業者は…本来的には自由に入札価格を決めることができるはずのところ、このような取決めがされたときは、これに制約されて意思決定を行うことになるという意味において、各社の事業活動が事実上拘束される」とし、「上記取決めに基づいた行動をとることを互いに認識し認容して歩調を合わせるという意思の連絡が形成」されるとしています(最判平成24年2月20日)。

つまり、入札談合では原則として「基本合意」があれば意思の連絡と相互拘束の要件を満たすということです。入札談合事件は一般的にこの基本合意とそれに基づく個別調整行為からなります

国や自治体の発注があった際に、どのように受注者(落札者)を決定するかの取決めを基本合意と言い、それに基づいて具体的に受注者や入札価格を決め、入札参加者間での見積もり内容を調整する行為を個別調整行為と言います。

基本合意の証拠は残りにくく、個別調整行為は残りやすいと言われており、個別調整行為の立証によって基本合意の存在を推測することができるとされています(協和エクシオ事件東京高裁平成8年3月29日)。

 

違反した場合


 不当な取引制限を行った場合、公取委による排除措置命令の対象となっており(第7条)、また、課徴金納付命令の対象ともなっています(第7条の2第1項)。

課徴金算定率は原則10%となっており、課徴金算定対象期間は最大で10年となっています。また、この課徴金納付命令については課徴金減免制度(リーニエンシー制度)が用意されており、違反行為者が自ら違反事実を公取委に報告した場合課徴金が減免されます(第7条の4~6)。

減免率は、申請順位が1位で全額免除、2位で20%、3位~5位が10%、6位以下は5%となっています。また、2位以下は協力度合いによって最大40%が加算されます。

これら行政上のペナルティとは別に、民事上の損害賠償責任も負う場合があります(独占禁止法第25条、民法第709条)。また、刑事罰としても5年以下の懲役、500万円以下の罰金、法人には5億円以下の罰金が規定されており(独占禁止法第89条1項1号、第95条1項1号)、不当な取引制限に対する規制は非常に厳しいものとなっています。

 

まとめ


 近年、カルテルや談合などの不当な取引制限事件での高額な課徴金納付命令が相次いでいます。2022年には、それまで過去最高額であった2010年の719億円を大幅に上回る総額1019億円という課徴金納付命令がに出されました。

これは関西電力とカルテルを結んでいたとして、中国電力、中部電力、九州電力に対し課されたもので、特に中国電力には707億円が課されており、同社は同額の特別損失を計上しています。
さらに、東京五輪・パラリンピック談合事件でも高額な課徴金が予想されます。

以上のように、独禁法ではカルテルや談合など不当な取引制限行為を反競争行為として非常に厳しく規制しています。

不当な取引制限は上述したように、間接証拠や状況証拠などを積み重ねて意思の連絡や相互拘束があったことを立証していきます。当事者は単に競合他社と情報交換をしただけ、または単に探りを入れただけという認識でも、合理的な理由なく各社値上げなど客観的に行動の一致があれば意思の連絡が推認されてしまうことがあります。

どのような行為が違反となるか、またどのような行為を注意しなければいけないかを社内で周知し、特に営業担当には同業者との接触には注意を促しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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