偽装請負と労働者性の判断
2017/08/01 労務法務, 労働法全般, 労働者派遣法, その他
労働者性の判断についての誤解と偽装請負の問題
昨今、業務委託契約、SES(システムエンジニアリングサービス)契約等の、民法上、委任契約や請負契約に当たる契約を用い、受任者や請負人を独立した事業主として扱うことで、以下のメリットを享受しようと考える企業が少なくありません。
1、委任者・注文者に健康保険や厚生年金、雇用保険等の保険料の負担義務がない。
2、受任者・請負人に労働基準法をはじめとする労働関係法令が適用されないため、
割増賃金の支払い、年次有給休暇の付与、解雇予告の手続き、健康診断の実施、
最低賃金の適用等の義務がない。
3、委任契約や請負契約は雇用契約に比べると、契約を打ち切ることが容易である。
しかしながら、委任契約や請負契約を結んだ場合でも、受任者・請負人が労働者と判断される場合があり、この場合には、これらのメリットを享受できず、後から残業代を請求される等、予想外の支出が生じるどころか、労働関係諸法規に違反し、懲役や罰金に科せられる場合も考えられます。
また、この場合のように、実態が労働者供給であるにもかかわらず、委任契約や請負契約を締結し、受任者・請負人を自社の労働者のように扱う場合や、労働者派遣でありながら、派遣先の企業が派遣社員を自社の労働者であるかのように扱うことについては、偽装請負と呼ばれ、昨今、問題視されています。そこで、偽装請負を行わないために、労働者性の判断についてご紹介いたします。
労働者性の判断について
労働基準法(以下、労基法)では、「労働者とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう(労基法9条)。」(※例外については下記)としています。
ここで重要になるのが、①使用性(指揮監督性)と②賃金性(報酬の労務対価性)の判断です。これらが認められると、労働者と判断されます。また、これらの事情では判断が困難な場合には、その補強として③その他の労働者性を補強する要素が考慮されます。以下では、これらの考慮要素についてご紹介いたします。なお、考慮要素は当事者の主観や形式的な事情ではなく、客観的な事実や実質的な事情に基づいて行うものと考えられています。
使用性(指揮監督性)についての考慮要素
下記が認められるほど、①使用性(指揮監督性)が認められやすくなります。
・仕事の依頼・業務従事の指示等に対する諾否の自由がない
・業務遂行上の指揮監督がある。
Ex:業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令がある。
その他通常予定されている業務以外の業務がある。
・勤務時間・勤務場所等の拘束性がある。
(業務の性質による拘束は除外される)
・他人による代替性がある。
(本人に代わって他の者が労務を提供することが認められている場合)
賃金性(報酬の労務対価性)の考慮要素
下記が認められるほど、賃金性(報酬の労務対償性)が認められやすくなります。
・労働の結果による報酬の格差が少ない
(報酬が労働の時間の長さによって決まると、賃金性が高まり、
反対に成果によって決まると、賃金性が下がる。)
・欠勤した場合には応分の報酬が控除される。
・残業をした場合には手当てが支給される。
③その他の労働者性を補強する要素
下記が認められるほど労働者性が補強されやすくなります。
・事業者性がない
Ex:機械・器具の負担がない、
報酬に固定給部分がある(業務の分配による事実上の固定給を含む)
報酬の額が生計を維持し得る程度のものである等
・専属性が高い
Ex:他者の業務への従事が制約されている
(時間的余裕等による事実上の制約を含む)等
・公租公課の負担
Ex:給与所得の源泉徴収がある、社会保険料等の控除がある等
・使用者が従業者を労働者として認識している場合
Ex:選考過程が正規の従業員と同じ
服務規律の適用がある
労働保険、退職金制度、福利厚生の適用がある
裁判例の紹介
①トラックの持ち込み傭車運転手(最一小判平8・11・2労判714-14)
・業務遂行上の具体的な指揮監督がなく、指揮監督性が希薄とされています。
・出来高払いで、報酬の労務対償性が薄いとされています。
・トラックを自己所有し必要経費等を負担していることから、事業者性が強いとされ、
所得税の源泉徴収や社会保険料等の控除がなく公租公課を負担していることから、
労働者性が補強されていません。
その結果、労働者性が否定されています。
②月額6万円の奨学金等を得て大学院の臨床研修をしていた研修医(最二小判平成17・6・3民集59巻5号938項)
・指導医による指示や時間・場所の拘束性が認められることから、
指揮監督関係の存在が認められています。
・奨学金等を支払い給与所得として源泉徴収していることから、
報酬の労務対償性が認められています。
その結果、労働者性が肯定されています。
総括
以上、見てきましたように、契約の名称に縛られず、労働者性は、実態に応じて判断されます。そして、実態の判断に際しては、契約書の内容も加味されますので、企業法務担当者としては、契約の内容が労働者と判断される内容になっていないか慎重に検討する必要があります。また、現場担当者の指揮監督について、受任者、請負人、派遣労働者を自社の労働者として扱わないように、情報共有を行うことも大切といえるでしょう。
参考
※労働者と認定されない例外
㋐同居の親族のみを使用する事業に使用される労働者および㋑家事使用人は労基法の適用範囲から除外されています(労基法116条2項)。
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