人員整理の進め方と注意点
2016/11/10   労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

 精密機器メーカー「ニコン」は、半導体関連やデジタルカメラ事業で業績が悪化していることから、国内で希望退職の募集による1000人規模の人員削減を行うと発表しました。
ニコン 国内で1000人規模の人員削減へ
ニコンでは今後発表の通りに人員削減が行われていくことが予想されます。
 今回は、企業が人員削減を行うための人員整理の進め方について見て行きたいと思います。

人員整理の進め方

 人員整理の進め方としては、労働者意思の尊重という観点から、まず希望退職者を募集し、次に退職勧奨をし、最後に整理解雇を行うという手順を踏むことが望まれます。
 先に希望退職者を募集したか否か、退職勧奨をしたか否かは、後述する整理解雇の有効性に関係してくるため重要です。
また、後の紛争防止のために、適宜証拠となるものを残すと良いでしょう。

1.希望退職
 会社による希望退職者の募集に対して従業員が応募し、会社が承諾するという手順を踏みます。
希望退職の募集においては、(1)募集時期(2)募集人数(3)募集対象者(4)退職条件などを従業員に対して提示します。(3)募集対象者については、男性のみ、女性のみに限定すると男女雇用機会均等法に抵触するおそれが大きいため注意が必要です。
残存してほしい従業員に備えて、「業務上、特に必要と認められる者は除く」という除外規定を設けると良いでしょう。
希望退職者募集通知、希望退職申請書を作成します。

2.退職勧奨
 会社から従業員に対して、退職の意思表示をするように働きかける、または、労働契約を双方の合意のもとに解約することを申し入れるという手順を踏みます。
退職勧奨に合意するかは従業員の意思によります。
退職勧奨をするにおいては、会社に残留した場合のデメリットと会社を退職した場合のメリットを提示して行うことになります。
退職勧奨を行う際には、行き過ぎた「退職強要」を行わないよう注意する必要があります。
違法な退職勧奨を行うと、退職勧奨ではなく実質的に解雇と判断されたり、不法行為に基づく損害賠償責任が生じることがあります。解雇と判断される場合には、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用を受けます。
従業員に対して退職勧奨通知書・退職勧奨同意書などの書面を交付し署名捺印をしてもらうほか、会社・従業員間の対応を記録として残すために退職勧奨の様子を録音することが重要です。
録音できなかった場合は、退職勧奨直後に詳細なやりとりをメモなどに記録すると良いでしょう。
また、退職勧奨を行う際は威圧的、侮蔑的、誤解を招く言い方をしないことが大切です。

違法な退職勧奨の例:下関商業高校事件(最高裁昭和55年7月10日第一小法廷判決)

3.整理解雇
 希望退職者が予定人数に達しない場合に整理解雇を行うことになります。
使用者が従業員を解雇する場合には、原則として30日前に解雇予告をしなければなりません(労働基準法第20条)。
そして、整理解雇をするには(1)人員削減の必要性(2)解雇回避努力の履行(3)解雇対象選定の合理性(4)解雇手続の妥当性、を満たす必要があります。
上述した希望退職の募集は要件(2)と、退職勧奨は要件(2)(3)(4)と関係してきます。
必ずしもすべての要件を満たす必要はありませんが、要件を満たしていない場合は解雇無効となるおそれはあります。
解雇手続の妥当性を客観的に証明するために、事前に組合・従業員に対して十分な説明や協議などを行い、組合・従業員とのやり取りを書面に残すと良いでしょう。

参照:JAL解雇無効訴訟に見る、整理解雇要件

コメント

 人員整理は企業存続のため必要となることがありますが、労働者の生活や将来に多大な影響を及ぼします。
企業側が、人員削減のために人員整理の過程において違法な退職勧奨や解雇を行い、当該退職や解雇が無効となる事案もあります。
適正な手続を踏み、従業員に配慮した対応を取ることが大切でしょう。

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