事業主が不服申し立て可能に、労災制度のメリット制について
2022/12/16   労務法務, 労働法全般

はじめに

 労災発生数により保険料が引き上げられる制度をめぐり厚労省有識者検討会は7日、事業主が不服申立てできる仕組みに見直す方針を固めたことがわかりました。被災者への給付額に影響はないとのことです。今回は労災保険制度のメリット制について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、事業者は従業員に労働災害は発生した際に、労災保険給付決定に関する争いの当事者になることができず、また労災保険料認定決定についての審査請求でも労災保険給付決定を否定するような主張もできないとされてきたとされます。厚労省の有識者検討会は労災発生件数によって保険料が増加する事業者に、これらについても一定の範囲で不服申立てを認める方向で検討することが発表されたとのことです。保険料増額を受ける事業者と、被災労働者の法的地位の安定性確保について、両社の調和を図ることが趣旨とされます。これにより被災労働者への不利益はないとのことです。

 

労災保険制度とメリット制

 労災保険制度とは、労働者の業務上または通勤による傷病に対して必要な給付を行い、被災労働者の社会復帰の促進を行う制度です。その費用は原則として事業主が負担する保険料によってまかなわれます。労災保険は原則として1人でも労働者を使用していれば、業種の規模を問わず適用され、パートやアルバイトなどの非正規雇用でも同様です。労災保険料は災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに定められますが、同じ種類でも作業工程や設備、環境、事業主の災害防止努力等の違いにより災害率には差が出るとされます。そこで事業場の労働災害の発生数に応じて一定の範囲で労災保険率または保険料額増減させる制度が設けられております。これをメリット制と呼びます。以下具体的に見ていきます。

 

メリット制の対象事業

 メリット制の対象となる事業は、(1)継続事業、(2)一括有期事業、(3)単独有期事業に分けられます。通常は継続事業に該当することになりますが、一括有期事業は建設業などの一部業種で、単独有期事業は事業期間が限られる建設業や林業などが対象となっております。継続事業でメリット制の適用対象となるのは、前々保険年度の3月31日時点で労災保険成立から3年以上経過しており、3年度遡って労働者を100人以上使用していること、または20人以上100人未満使用しており災害度係数が0.4以上であることとされます。災害度係数とは業種ごとの労災保険率から非業務災害率を控除して労働者数に乗じたものです。適用される場合は労災保険率をプラスマイナス40%の範囲で増減されることとなります。

 

労災関連の不服申立て

 労基署長が行った労災保険給付に関する処分については3ヶ月位内に都道府県労働局の労災補償保険審査官に審査請求の申し立てを行うことができます。その決定に対しては2ヶ月以内に労働保険審査会に再審査請求が可能です。そこでの裁決に対しては6ヶ月以内に裁判所に取消訴訟を提起できます。しかしこれらの当事者はあくまで被災労働者であって事業主は当事者になることはできません。また保険料認定決定については事業主が審査請求を申し立てることができますが、ここでも給付決定の要件該性を否定する主張はできないとされます。これは被災労働者と事業主では利害が相反し、被災労働者の地位が不安定になるからです。今回の有識者検討会の検討では、保険料認定決定での審査で給付決定の要件該当性を否定する主張も可能とする取り扱いの変更が提言されております。こちらで要件に該当しないと認定されても給付決定には影響しないものとされます。

 

コメント

 以上のように今回の厚労省有識者検討会では労災保険給付の要件該当性について、事業主にも一定の場面で争うことが認められることとなる見通しです。本来労災認定され、保険給付がなされるかの決定について事業主は関与できませんでしたが、メリット制のもとでは労災認定の数に応じて保険料が増減することから事業主にも一定の範囲で関与する途が確保されるべきとの趣旨です。上では簡単にしか触れておりませんが、メリット制の仕組みや算定方法はかなり複雑なものとなっており、また安全衛生措置を講じて労働局長の認定を受けるなどした場合、さらに保険料が減額される特例も用意されております。今一度労災保険制度を確認し、自社の労務管理を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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