セネジェニックスの元役員が株価操縦で逮捕、金商法の「偽計」について
2022/03/04   コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに

 ジャスダックに上場している医療ベンチャー企業「テラ」の株価を上げるために虚偽情報を公表したとして先月25日、警視庁は「セネジェニックス・ジャパン」の元役員を逮捕していたことがわかりました。預金通帳のデータを偽造していたとのことです。今回は金融商品取引法が規制する「偽計」について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、2020年10月にテラがセネジェニックスから第三者割当増資で約35億円を調達すると発表した際に、その資金として飲食店経営会社「トレド」から約75億円の融資を受ける旨の情報を公表したとされます。その際トレドに十分な融資資金があると装うために同社の通帳データを偽造し残高が75億円以上あるように改ざんしていたとのことです。同社の口座には実際は数十万円の残高しかなく、警視庁はセネジェニックス社の元役員らを金融商品取引法違反および私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕しました。なおセネジェニックス社は現在破産手続き中とされます。

 

金商法上の規制

 金商法では株式取引に関して、風説の流布、偽計、相場操縦、インサイダー取引などが不公正取引として規制されております(158条、159条、166条等)。風説の流布とは相場の変動を目的として合理的根拠のない風評などを不特定多数に伝達することを言います。相場操縦は、同一の株式を同時期に売りと買いの注文を発注したり、また複数の証券会社を介して連続した高指値注文を行うなどしてあたかも売買が活発に行われているかのように見せるなど人為的に市場の受給を形成する行為を言います。インサイダー取引とは、投資家の投資判断に影響を及ぼす情報を容易に接しうる特別な立場にある者が未公表の情報を知りながら行う取引を言います。上場会社の役員や帳簿閲覧権を有する株主、証券会社の社員、監督官庁の職員、M&Aに関与する法律家、それらの者でなくなってから1年以内の者が該当します。このように金商法では様々な不公正取引を禁止しております。以下偽計について見ていきます。

 

偽計とは

 金商法158条では、風説の流布と並んで、相場変動を図る目的で「偽計」を用いることも禁止されております。「偽計」とは一般に、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な手段を言うとされております。株式の取引で相手方を騙して有利に取引を行う行為とされますが、一般投資家もその対象と言われております。そのため第三者割当増資やM&A、TOBなどの際に自社や取引相手会社、合併先の会社などの財産状況や信用状況などについて虚偽の発表をして実際よりも良く装って株価を釣り上げるといった行為も該当します。実際に摘発された事例としては、会社の売上高が実際には2000万円であったにも関わらず、5おく6000万円余りの売上があったと公表し株価の維持と新株予約権の行使を促進した例があります。また架空の第三者割当増資を行った旨公表して多額の資金調達に成功させたかのように装った虚偽のIR情報を公開したといった例も挙げられます。

 

不公正取引の罰則

 これらの不公正取引を行った場合、金商法では罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらを併科すると規定しております(197条1項5号)。またこれら不公正取引は課徴金納付命令の対象ともなっております(173条等)。課徴金の算定についてはそれぞれ個別に規定されておりますが、風説の流布や偽計については、違反行為時および違反行為後1ヶ月間の最安値(または最高値)の差額を基準とするとされております。なおインサイダー取引では、重要事実公表後2週間の最高値に買付数を乗じたものから公表前の価格に買付数を乗じたものを控除して算出するとされております。過去5年以内に課徴金の対象となった者が再度違反した場合は課徴金の額は1.5倍となります。また当局の調査前に自ら報告した場合は半額とされます。

 

コメント

 本件でテラの業務提携先であるセネジェニックスの元役員は、テラの株価をつり上げる目的で、テラが第三者割当でトレドから約76億円の資金を調達するかのように虚偽のIR情報を公表したとされます。その際トレドに十分な資金があるように偽装するため銀行口座のデータを改ざんしていたとのことです。このように相場変動を目的とした偽装行為は偽計に該当する可能性が高いと言えます。以上のように金商法では様々な不公正取引行為を禁止しております。その中でも偽計は包括的で抽象的な規定と言え、風説の流布などに該当しない欺罔的な行為全般を対象としていると言えます。有価証券報告書への虚偽記載については別途規定が置かれておりますが、それ以外のIR情報や公表資料等に改ざんを行った場合も金商法に抵触することとなります。資金調達の際にはこれらの行為に該当していないかを慎重に検討しつつ進めていくことが重要と言えるでしょう。

 

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