政府が指針公表、内部通報者への嫌がらせが懲戒対象に
2021/10/13   労務法務, コンプライアンス

はじめに

 政府は企業内の不正を内部通報した者に対する「嫌がらせ」などの精神的不利益についても役員らへの懲戒処分の対象とする方針を固めました。8月に公表された指針に明記するとのことです。今回は内部通報者保護制度を見直していきます。

 

事案の概要

 読売新聞によりますと、来年6月から施行が予定されている改正公益通報者保護法に先立ち、今年8月に公表された指針に、内部通報者への精神的な不利益も懲戒処分の対象とする方針を固めたとされます。これまでの解雇や降格といった人事上の処分の無効に加え、役員らが通報者を精神的に追い詰めるといった場合も規制の対象とすることで内部通報を促す狙いがあるとのことです。このほか通報先の窓口を企業内だけでなく法律事務所など外部に設置することも容認されるとされております。

 

公益通報者保護制度の概要

 公益通報とは、労働者が労務提供先のの不正行為を、不正の目的でなく、一定の通報先に通報することを言うとされております(2条1項)。通報の主体である「労働者」は正社員、派遣労働者、パート、アルバイトを問わず、また公務員も含まれております。
「通報対象事実」は国民の生命、身体、財産、その他の利益の保護に関する一定の法律違反です。具体的には刑法や食品衛生法、道路運送車両法、薬機法、建築基準法といった個人の生命身体を守る法律、金商法、景表法、特定商取引法など消費者の利益を守る法律、その他独禁法や労働法、環境法などが指定されております。
通報先は事業者内部、権限のある業績機関、その他報道機関や消費者団体、事業者団体、労組などの外部となります。

 

公益通報者の保護内容

 上記の要件を満たす公益通報者に対しては、それを理由とする解雇、派遣契約の解除は無効とされます(3条、4条)。またそれ以外の降格、減給、訓告、自宅待機命令、給与上の差別、退職強要、専ら雑務に従事させること、退職金の減額や没収など不利益な取り扱いも禁止されます(5条)。
なお労働者派遣関して、派遣先が派遣契約を解除する場合だけでなく、派遣元に派遣労働者の交代を求めるなど、通報者に対し不利益た取り扱いをする場合も禁止となります。公務員についても同様の不利益取り扱いの禁止が規定されております。

 

令和2年改正の概要

 令和2年改正では、より通報を安心して行いやすく、また事業者自ら不正を是正しやすくするため従業員300人を超える事業者には通報窓口の設置や調査、是正措置などの体制整備が義務付けられます(11条)。その実効性を確保するため、助言や指導、勧告、公表などの行政措置が導入され(15条、16条)、内部調査者に通報者を特定させる情報の守秘義務(刑事罰付)が設けられます(12条、21条)。
また行政機関や報道機関等への通報の要件が緩和され、より外部への通報も行いやすくなります。保護の対象となる通報者も現行の「労働者」に加え、退職後1年以内の退職者や役員が追加され、通報対象事実となる法令違反も拡充されます(2条3項)。

 

コメント

 近年企業の大規模な不祥事が後を絶たず社会問題とされており、早期に発見するためには内部者による通報が不可欠とされております。しかし一方で通報を行った内部社員の保護も急務とされます。平成16年に公益通報者保護法が制定されて以降も依然として通報者へのパワハラや嫌がらせといった事例は減少の兆しを見せないと言われております。
そこで来年6月からの改正法施行に先立ち、政府は指針で精神的な嫌がらせなども規制の対象とし、通報の受付窓口も法律事務所など外部組織に設置可能としたとされます。これは中小企業が数社共同で窓口を外部委託することが想定されているとのことです。また通報用の専用電話番号やメールアドレスを設置し通報内容の漏洩を防ぐことなども盛り込まれるとされます。
今一度社内のコンプライアンス体制に加え、通報者の保護体制についても見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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